先方の本社ビルを出ると、すっかり夜の気配を含んだ風が頬にふれた。
一度、思いきり伸びをしてから、ようやく全身の力を抜く。
大阪での日帰り出張の仕事も無事に終え、あとは新幹線に揺られて直帰するだけとなっていた。夜に染まりつつあるビル街には、きらびやかなネオンが灯り始めている。その中を、駅に向かって歩いていく。
「お腹、空いたな」
ぽつりと漏らされたその声に、視線を上げる。左隣を歩く、頭一つ分高い早川さんの横顔を見やった。
つい先ほどまではしゃんと伸ばされていたはずの背筋は、先方のビルを出た直後からすっかり脱力してしまっていた。その方が早川さんらしいけれど、少し勿体ないと思わないでもなかった。
「お腹、すきましたね。早く帰ってゆっくりしたいです」
私がそう返すと、早川さんは「な」とだけ言った。
妙な沈黙が続いたような気がして、暫くその先を待ってみた。しかし、なにもなかった。
気のせいかと思いかけた時、早川さんの視線がたった今通りすぎたばかりの飲食店をちらりと追った。
