この気持ちは生まれてすらいない



早川さんの目に、私はどんな風に映っていたのだろう。私にとって、早川さんはどういう存在だったのだろう。

会社を辞めてからはほとんど会う機会もなくなっていたのに、私はなにをそんなに後悔しているのだろう。






事件の翌日、どこからか情報を得たのか、二人の記者が自宅を訪ねてきた。早川さんや容疑者の男について、知っていることがあれば教えて欲しいと。
ただ帰してしまうのは気が引けて、玄関先で数分ほど表面的な対応をした。

早川さんとの思い出はささやかなものばかりだったが、自分の胸にしまっておきたかった。




きっと、この世に神様なんていないのだろう。



もし神様がいたなら、早川さんをあんな風に死なせるはずがない。

彼の最期は、ドラマや映画で表現されるような綺麗なものではなかった。その場に居合わせた社員の中には、PTSDになった者もいた。

目を覆うような惨状の中、それでも彼の息はあったのだ。楽に死ぬことすら許されなかった。


この世界のどこにも、早川さんはいない。二度と、あの声に褒められることもない。

頭でわかっていても、実感は沸かなかった。
だけど、時に胸をかきむしりたくなるようなやり切れなさだけが、ずっと存在していた。


あの時、ああしていれば。
もし、こうであったなら。


身近な人間の、理不尽で唐突な死に直面した時、誰もがそうやって過去を振り返るのだろうか。

取り戻せない瞬間に、焦がれるように執着したりするのだろうか。


私には、何度も思い返してしまう瞬間があった。

考えるだけ無駄だと知っていても、思い返さずにはいられない瞬間が。