軽い提案でもするかのように言われ、思わず目を丸くしていた。『そういう事なら』とは、どういった脈略できた流れなのかさっぱり分からなかった。
動揺のあまり、軟骨のから揚げに伸ばしかけていた箸が、片方だけ指から零れ落ちた。テーブルにカツンと当たり、椅子から床へと落ちていく。
「あ、ちょっと…」
早川さんの視線から逃れるように、私はテーブルの下の箸を追いかけた。
狭いテーブルの下に上半身を潜り込ませ、時間を稼ぐために、わざとゆっくりとした動作で箸を拾い上げた。すぐ目の前には早川さんの靴があった。コーヒー色のレザーシューズはじっと動かない。
心臓が、どくどくと早鐘を打ちはじめた。
(…―――――え、本当に?)
なにか意味を取り違えているなんて事はないかと、自分を疑った。だけど、そうとしか考えられない。
いつまでもテーブルの下に避難しているわけにもいかず、そっと上体を起こして地上に顔を出すと、すぐに早川さんの視線とぶつかった。耳まで熱くなるのを感じながら、ぎこちなく座り直した。
「…今のって、本気で言ってますか?」
「俺が、軽い気持ちでこんなことを言うと思う?」
今度は早川さんに心外そうにされて、思わない、と首を振った。確かに早川さんは冗談でこういった類のことを言うようには見えなかった。というより、仕事以外では早川さんがどういった言動をとる人なのか、私は知らないのだけれど。
「…で、そちらの返事はどうです?」
トントン、と指で二回テーブルを鳴らす。あまり早川さんらしくない、急かすような言い方だった。
