…もしかして。
『早く帰りたい』という趣旨のことを口にしたのは余計だったのかもしれないと、私は自分の失敗に気づいた。
早川さんとは同僚を含む何人かで飲みに行く機会はあったが、二人きりというのは一度もなかった。だから、今日も当然このまま帰るのだと思っていた。
(どこか、入ります?)
とりあえず、こちらから誘ってみようか。そう思って開きかけた唇は、なぜか止まっていた。おや? と心の中で首をかしげる。
何てことはない。軽く訊けばいいだけのこと。それなのになかなか声にならず、少し焦った。
普段であれば、行きたいと思った時にぽんと誘ってしまうのだ。それなのに、今は妙に躊躇っている。相手が早川さんだからだろうか。自分でも不思議だった。
でも、誘ったとて、あっさり断られる想像も出来てしまうのだった。早川さんは、妙にさっぱりした面もある人だから。
「いや、いいわ帰る」なのか、「じゃあ、行くか」なのか。
どちらの反応もありそうだ。
右に左に躊躇しているうちに、段々と悩むのも面倒になり、今回はこのまま帰ろうという結論にたどり着きつつあった。
