ベランダの向こうには、目が覚めるような鮮やかな青が広がっていた。
冷房を切りリビングの窓を開け放つと、耳をつんざくような蝉の声とともに、屋外の穏やかな喧騒が戻ってくる。
ぬるま湯のような外気に肌を包まれていた。
解放感で身体が軽くなるのを感じながら、冷えた炭酸水を片手にマンションのベランダに出た。手すりに体重を預け、人通りのまばらな表の通りを見下ろした。
人や車の往来をしばらく目で追っていると、唐突に背後で鋭い振動音が鳴り響いた。
先ほど納品したものに不備でもあったのだろうかと急いでリビングに戻り、テーブルの上で震えるスマホ画面を覗きこむと、発信元は前の勤め先でお世話になっていた先輩だったので、おや?と不思議に思った。
時刻は昼の十三時をすこし過ぎたころ。
LINEではなく電話ということにわずかな不穏さを感じながら、通話ボタンをスライドした。スピーカーに切り替えると同時に飛び込んできたのは、やけに切羽詰まった声だった。
「真中ちゃん、テレビ、テレビつけて!」
「え、何ですか?」
「8チャン、早く!」
わけが分からず急かされるままテーブルのリモコンを手にとり、壁際に置かれたテレビを点けた。チャンネルを合わせると、どことも判別がつかない上空からの街並みが中継で流れていた。
ヘリに搭乗したリポーターが声を張って現場のレポートをしている。右上の小さな窓には、馴染みのある男性司会者の顔。
あ、と短く声が漏れていた。
画面がさらに寄り、五階建ての建物がクローズアップされたとき、それが二年前まで自分が勤めていた社屋だと気づいたからだ。
建物の正面出入り口を、白いワゴン車が塞いでいた。相当なスピードで激突したのか、車体の前部分は無惨に潰れ、変形したボンネットからは黒い煙が微かに立ち上っていた。
周囲には様々な破片らしきものが散らばり、格子柄の床タイルの上には黒い水溜まりのようなものも見て取れる。最初は車体から漏れたオイルかと思ったが、すぐに血だと気づいた。
息を呑んでいると、画面下にテロップが表示された。
意識不明の重体が一人、重症が二人、軽症一人。
重症者二人のうち一人はワゴンを運転していた男性で、他は男性従業員だという。
「どうしよう、真中ちゃん、どうしよう…!」
悲鳴にも似た先輩の声が、恐怖をさらに掻き立てる。首のうしろが冷たく蠢いて、思わず抱えた二の腕は、夏だというのにひどくざらざらしていた。
蝉の声がやけに耳に近く、距離感を見失ったかのようだった。
