恋をして、大人になった。

高校に入ってからのわたしは、恋なんてもう少し先の話だと思っていた。
でも、気づいたらまた、誰かを目で追っていた。

隣のクラスの彼と初めて話したのは、たぶん一年の一学期、中間テストの頃だったと思う。
廊下で偶然会って、なんとなく「テストどうだった?」って声をかけた。

それだけの会話なのに、不思議と心が軽くなった。

その帰り道、一緒に歩きながら他愛もない話をした。
笑っているうちに、「あ、この人のこと好きかも」って思った。

それは、痛みを伴わない、穏やかな“好き”だった。

彼はとても優しかった。
困っているときは、さりげなく助けてくれる。
わたしが友達と喧嘩して落ち込んでいたときも、後からわざわざ来て、こう言ってくれた。

「さっき、あの子と一緒にいてごめんね」

その一言で、涙が出そうになった。
“人の優しさを信じること”を、やっと思い出した気がした。

一年のバレンタインの日。
勇気を出して、チョコを渡した。
そのときは、照れくさそうに笑って受け取ってくれたけれど、ホワイトデーのお返しはなかった。

少ししょんぼりしたまま、時が過ぎた。

でも、二年のホワイトデーの日。
彼がふいに、お菓子を差し出してきた。

「これ、去年の分も一緒に」

そう言って、少し照れくさそうに笑った。

一年前、返事をもらえなかった自分の想いが、ようやく報われたような気がした。
胸の奥がじんわり温かくなって、その笑顔を、今でも鮮明に覚えている。

卒業の少し前。
勇気を出して、告白した。

彼は少し考えて、「卒業してから答えを出す」と言った。
それが、彼らしかった。

そして卒業後、もう一度伝えた。
結果は、残念ながら“ごめん”だった。

涙は出なかったけれど、胸の奥が静かに沈んでいくような感覚があった。
期待していた分だけ、ぽっかりと穴が空いたみたいで、しばらくの間、何をしても心ここにあらずだった。

それでも、数日が経つうちに、気持ちは少しずつ落ち着いていった。

しばらくして、彼が舞台に出演するようになったと知った。
それ以来、彼から届く案内を通して、配信越しに舞台を観るようになった。

今でも、たまにLINEでお知らせが届く。

そのたびに、画面の向こうで頑張る彼を見て、「夢を叶えたんだな」って心から思う。

彼への気持ちは、もう恋じゃない。
けれど間違いなく、あの頃のわたしを支えてくれた、大切な時間だった。

あの高校の三年間で、恋は痛いだけのものじゃなく、“優しさで心が温かくなるもの”だと知った。