期末テストが終わり、夏休みが始まった。
周りのみんなは、部活の最後の大会に、受験勉強に、精を出す。

それなのに私は、何にも身が入らずにいた。

あの日の放課後、由衣から例の噂を聞かされて以降、私の心の中心には常に彼がいた。
彼を見るために学校に行き、彼に近づきたくて鉛筆を握った。

学校が無ければ、彼との接点は0になる。夏休みに入って以降、私の心には穴が開いてしまったようであった。


流石にこのままじゃいけない、そんな焦りがを感じて、私は由衣を夏祭りに誘った。
何でもいいから、気持ちを紛らわしたかった。


「咲希ー。久しぶりー。」

集合場所に着くと、浴衣に身を包んだ由衣が見えた。

私も浴衣、着てくればよかったかな、と少しだけ思う。

「十日会ってないだけじゃん。」

そう言いながらも、私は由衣に会えて嬉しかった。

「てか、彼氏はいいの?私と来て大丈夫?」

「あー、いいの。一輝とは明日来るから。」

「私との夏祭りは下見かよ。」

祭りは二日間開催される。
由衣は、初日は私と周り、二日目は彼氏と来るつもりのようだ。

「いいから行こ。ウチ、りんご飴食べたい。」

ピンクの浴衣を着た由衣と、タンスの1番上にあったシャツを引っ張り出して着ている私は、なんだか釣り合っていない気もしたけど、時間が経つとそんなことも忘れ、お祭りに夢中になっていた。




「疲れたあ。やっぱ下駄って歩きにくいなあ。」

歩き回って疲れたのか、由衣がベンチに座り込んだ。
私も隣に座る。


ベンチの正面には、わたあめの屋台が店を構えていた。

列に並ぶ小学生の中に、背の高い青年が一人紛れている。
吸い込まれるような黒い浴衣と、右手に持った赤いりんご飴との色合いが素敵で、私は目を凝らしてその男子を見つめた。


「あ、、、」

彼だった。


「ねえ咲希、あれって沖田だよね。」

由衣も気づいたらしい。

そうだ。沖田拓海、一か月追い続けた彼だ。


私が黙って頷くと、何を思ったか、彼女は立ちあがり、彼の方へ向かっていった。

「ちょっと由衣、待って!」

私の静止を振り切り、由衣は彼に話しかける。

「沖田くんだよね?」

彼は、驚いたようにこっちを見た。

「ああ、クラスの。」

一か月追い続けた彼が、今、目の前にいる。

やっぱり浴衣、着てくればよかったな。

心臓が飛び出そうになるのを抑え、なんとかして気持ちを落ち着かせる。

落ち着け、私。彼だって緊張しているはずだ。

だって彼は私のことが___

「沖田くん、ひとり?」

由衣が尋ねる。

「いや、弟と来た。今は疲れて休んでるから、わたあめ買ってやろうって思って。」

「へー。沖田くんモテそうだから、彼女と来てるのかと思った。」

嘘つき。
モテそうなんて、思ったこともない癖に。

心の中で毒づくと同時に、由衣の狙いに気づいた。



彼の恋愛事情を、探ろうとしてるんだ。