初恋の返却は駅のホームで


先頭から二両目の一番前のドア。

いつも、そこに並ぶ事にしている。




私が通う名門女子中学校(ただ古いだけとも言えるが)までは、電車を二本乗り継いで40分程かかる。

2月の朝は凍るほど寒い。

黒とグレーのタータンチェックのマフラーをぐっと締め直す。

うちの学校の制服は、紺のジャケットに赤いチェックのプリーツスカートで、制服が可愛いという理由で入学する子も多いと聞く。

でも、私はグレーのスラックスを(すき)なく履いている。


「朝子、なんでスカートはかないの~、脚長くて綺麗なのにさぁ。」


同級生はそう言って悪意なく私に声をかけるけれど、私は今日もスラックスを履いている。

赤いチェックのスカートは、新品のままクローゼットの隅に鎮座(ちんざ)している。

スカートが嫌いなわけじゃない。

自分の性別に違和感を感じているからでもない。

ただ、私にスカートは似合わないのだ。


“かわいいモノ”は、私には似合わない。理由はそれだけ。


だって、私の初恋は男の子だった。

刈谷 恵介(かりやけいすけ)

それが、私がはじめてドキドキした男の子の名前だ。



♪タラリンラリランラン ラリラリ~



どこかで聞いたことのあるのんきな音楽がホームに鳴り響く。


プシューッ 


電車がホームに到着する。


けだるそうな会社員や学生がどっとホームにあふれ、私は人波の間から素早く車内に目を走らせる。


(いた。)


先頭から二両目の一番前のドアから入ると、その対面のドアに、彼は必ず立っている。

そうして、右端の手すりにもたれかかって何か小説らしきものを熱心に読んでいる。

黒の学ランの上にグレーのダッフルコートをはおって、今日も小さな単行本から全く目を離そうとしない。

こちらの存在に気づかれなかった事に安堵して、私は彼の事がかろうじて見えるあたりのつり革につかまって、その様子を観察する。


彼の名前は、刈谷 恵介。


私の初恋の人である。