【5話】

◆鈴理の部屋(月詠家の敷地内にある)・夜

響也に傷の手当てをしてもらっている鈴理。
いつも鈴理に見せている柔らかな表情と違い、冷めたい表情で黙々と作業をしている響也に、おそるおそる声をかける鈴理。

鈴理「…響也さん、怒ってます?」
響也「そうだね」
鈴理「も、申し訳ありません! 私の鍛錬が足らず一般の方を…」
響也「鈴理、違うよ」
鈴理「え」
響也「僕自身に怒っているんだ…だからそんな顔をしないで」

そっと鈴理の頬を撫でる響也。

響也「これは僕の問題。ごめん……っつ!」

異能使用(暴走)の代償により頭に激しい痛みが走り、思わず声がこぼす響也。

鈴理「響也さん! 私はもう大丈夫ですので血をお飲みくださいっ」

急いで採血用穿刺器具を手首に当てる鈴理。パチンと音とともにぷくりと血が出始める。

響也「っ…はぁ…ごめん…鈴理…」

痛みに耐えながら、血を流す鈴理の手首に口を付ける響也。

鈴理「んっ…気になさらないでください。響也さんのおそばにいると決めた日から心得ておりますから」
響也「っ…そうだね…でも心は変化してしまう…」

鈴理の手首から口を離した響也は暗い表情でぽつりとつぶやく。くちびるは血がついている。

鈴理「響也さん?」

手首から血を流す鈴理の腕を取り、頬を擦り寄せる響也。
 ※1話冒頭シーン

響也「おとぎ話じゃなく、本当に吸血鬼だったらよかったのに」
鈴理「っ…」※息をのむ

鈴理の喉元に視線を走らせる響也。

響也「昔、吸血鬼の話をしてくれたよね。吸血鬼に噛まれてた人間は眷属(けんぞく)になる…それは主人と従者、離れることのない永遠の契約(●●●●●)だって」
 ※本作での解釈:吸血鬼の眷属…吸血した者(主人)に支配される存在。主人しか解除することはできない”呪い”のような契約。

狂気の片鱗(へんりん)を見せる響也。

鈴理「響也さん…?」

ふだんと違う響也の表情に戸惑いがこぼれる鈴理。

響也「鈴理を信じていないわけじゃない…だけど…鈴理と、もっと強く繋がりたいんだ」
鈴理「そっそれは……どっ…!?」※ぐらりと視界がゆがむ。

元々戦闘で体力を失っていた鈴理は、響也に血を与えたことにより生命力を削られ貧血状態になり倒れてしまう。
鈴理の視界が段々と狭く暗くなっていく。

鈴理「きょ、や、さん……すぅ…」※意識を失い眠ってしまう

響也「ごめんね。僕はもう鈴理を手離すことができない」

鈴理の喉元を甘噛みする響也。
甘噛みされた鈴理の喉元周辺には甘噛みされた(あと)が残っている。



◆鳳翔高校・廊下・朝(1週間後)

生徒たちが遠巻きで鈴理を見ている。

鈴理「うぅ…視線が刺さる…いたたまれない…」
響也「仕方がないよ。入学して2ヶ月足らずで停学しちゃったんだから」

掲示板に【下記の者を1週間の停学処分とする。草影 鈴理…】と4話のトラブルに対しての処罰内容が掲示されている。

響也「それに相手は本来退学処分になるところ、鈴理が停学にしてって言ったんだよ?」

にっこりと笑う響也。

鈴理「ぐぅ…だってケンカ両成敗(りょうせいばい)と言うか…彼らは響也様と同じ未来ある若者ですし…若気(わかげ)(いた)りを許容するのが年上の(つと)めと言いますか…」※言い訳するも、もぞもぞと段々声が小さくなる

鈴理モノ『とはいえ今回、和眞様にもご迷惑かけてしまった…』

悩ましい表情をする鈴理。



◆回想・月詠家本宅の広間・夕方

響也と包帯などで顔や腕は簡易的に処置されている鈴理が並んで座っている。

和眞「なるほど、今回の件は不問にしたいと?」

穏やかな和眞には珍しく。眉間にしわを寄せている。

鈴理「はい。響也さんや月詠家を狙ったものではなく私自身に、です。つまり子供のケンカになります」
和眞「しかしね、月詠家の関係者に手を出す意味をわからないほど子どもでもないと思うけどね。響也はどうだい?」
響也「僕も父上の意見に同意見です。が、鈴理の気持ちを()んでもあげたいとも思います」

前半は怒りをにじませつつも、後半は鈴理への心配を気遣いを見せる響也。
響也の言葉にぱぁっと喜ぶ鈴理。

鈴理「響也さん!」
和眞「はぁ。響也はそう言うと思ったよ。私の口利きで退学処分を(まぬが)れるよう対処できるがーー異能を使ったことはどうするんだい」

響也が表情が硬くなる。

響也「それは僕の(しっ)たいー…」
鈴理「ご安心ください! 記憶は残っておりませんでした! 彼らに残っているのは、私を恐れてしまう潜在意識ですので問題ありません!!」※ドヤ顔
響也「鈴理…」※驚いた表情
和眞「それはそれで問題発言だよ。催眠術を使ったのかい?」

頭痛をがするように額に手をつける和眞。
ニコニコと報告する鈴理。

鈴理「はい。忍びの基本術なのでサクッと確認させていただきました」
和眞「まったく、鈴理は響也のことなら後処理も完璧だね」
鈴理「ありがとうございます」

深いため息をついた和眞は、響也に(するど)い視線を向ける。

和眞「響也。お前は次期当主として自覚を持って、感情に振り回されず自分のことは自分で後始末できるようになりなさい」
響也「はい、申し訳ありません」



◆現在・鳳翔高校・廊下・朝

鈴理モノ『ーーこのあと響也さんが「停学中は絶対安静だよ」って部屋から出してくれなかったから、隣を歩くの久しぶりなんだよね』

そうっと響也の横顔を見る鈴理。
久しぶりに間近で響也を見れることができ、鈴理の頬は緩み嬉しさがにじみ出ている。
鈴理の視線に気づいた響也の視線が前から鈴理の方へ動く。

響也「…鈴理、次回はないからね」
鈴理「き、(きも)(めい)じますっ!」

鈴理の勢いのある返事に、穏やかに微笑む響也。

鈴理モノ『響也さん、いつも通りだ…』

窓の外に咲く”血のような真っ赤な花”が視界に入った鈴理の脳内に、5話冒頭の響也「本当に吸血鬼だったらよかったのに」の声が響く。

鈴理モノ『あの後、なにも言われなかった…ーーだから、きっと深い意味なんてない』

5話冒頭の響也「離れることのない永遠の契約」「鈴理と、もっと強く繋がりたいんだ」の場面が浮かぶ。

鈴理モノ『私はただの”護衛”……勘違いしちゃダメ』

ぎゅっとカバンを持つ手を強く握る鈴理。




◆鳳翔高校・教室

鈴理「おはようございます」
響也「おはよう」

教室に入ってすぐ正春が声をかける。

正春「おはよー。不良娘の復帰だねぇ。おめでとー」
鈴理「うっ…正春様、その言い方はちょっと語弊が…」※弱々しい声
正春「この学校じゃ、じゅうぶん不良だよぉ?」
鈴理「ぐっ…」
猇太「そうだぞ。俺様にも感謝するんだな」

偉そうに鼻を鳴らす猇太。悔しさいっぱいの鈴理。

鈴理「んぐぐっ〜」
鈴理モノ『私が不在の間、和眞様が響也さんのことを気に掛けるよう猇太に依頼された。くっ不覚にも不覚だわー!!』

正春「まぁまぁ。久しぶりに会えて嬉しいのはわかるけど」

猇太の肩をぽんぽんと叩く正春。

猇太「はぁぁぁ!?」※動揺している
正春「これで我がクラスの平均気温が上がるよー」

猇太の叫びをスルーしながら、へらりと笑う正春。

鈴理「? 空調設備は一定に保たれているはずでは? 故障でもしていたんですか?」
正春「うーん、ある意味ね」

正春の視線が鈴理の奥にいる響也へ向けられている。

鈴理「はぁ…?」

あまり理解しないまま返事をする鈴理。
スイっと窓側に顔を背ける響也。



◆鳳翔高校・教室・夕方

チャイムが鳴り、教室内は片付けをはじめる。
机の上でトントンと教科書類を整え片付ける鈴理。

鈴理モノ『ー…ま、元々距離は取られていたけど、ますます遠巻きになったな』

教室の中でポツンとしている。気分がちょっと落ち込む鈴理。

鈴理モノ『・・・でも、響也さんが学校生活を楽しんでいただくことが第一だし、気合入れるぞ!』

ふんっと気合いを入れる鈴理の頬に、そっと手を添える響也。

響也「久しぶりの学校で疲れた?」
鈴理「わわっ大丈夫ですよ」
鈴理モノ『なんか距離(きょり)近い???』

ドキっとしながら笑う鈴理。
そんな鈴理を見て、ふっと甘い笑みを返す響也。

響也「そう、よかった。でも今日は早く帰ろう」
鈴理「はい!」

響也と鈴理の様子を見て、けっとつまらなそうに息を吐く猇太。

正春「んー。でも、早く帰りたい2人に残念なお知らせだけど、そう簡単にいかないみたいだよぉ」
鈴理「? それってどういうーー」

鈴理が言いかけると同時に、ガラッと勢いよく教室のドアが開く。

エレナ「失礼しまーす! 今日から草影さんが停学から復帰したって聞いて来ました!」
 エレナ:高身長のイケメン女子。クールな見た目だがよく笑う。

司馬「おいおい。下級生のクラスなんだからもっと上級生として落ち着きをもってだな…」
 司馬:筋肉質の大柄な男子。強面だが気が優しい。

エレナ「そんな風に硬いことばっかり言ってるから怖いって言われるのよ」
司馬「な、なに!?」

動揺する司馬をスルーして、教室内を見渡すエレナと鈴理の目が合う。

エレナ「はじめて見る顔! ってことは、あなたが草影鈴理ちゃんね!」
鈴理「はひっ!?」
エレナ「私たちについてきてもらうわよ!」

鈴理に向かって、ぱちりとウィンクするエレナ。
すぐさま響也が、スッと鈴理の肩を抱きながらエレナと司馬へ笑いかける。

響也「鈴理は僕の護衛です。主人を差し置いて連れていくことは許容できません」
鈴理「!?」※響也の言動に驚く

◆鳳翔高校・風紀委員室・夕方

鈴理「え!?」※自分の状況に理解が追いついていない鈴理。

ソファに並んで座る鈴理と響也。