【4話】

◆回想(響也の夢)・月詠家本宅の広間・昼

羽織り袴の和装を着て正座している響也(5才)
響也の前で和眞と壮年の男たちが会話をしている。

男1「おぉ! この子が」
男2「もう異能を覚醒されたとか」
男3「和眞殿、将来が楽しみですな」
和眞「いえいえ、覚醒したばかりですのでどうなるかはわかりませんよ」

響也には男たちの会話に含まれる心の声が高い精神干渉能力により二重に聞こえている。

男1「謙遜されなくても(幼子(おさなご)のうちに取り入れれば)」
男2「そうですよ(こいつをどうにかすれば)」
男3「利発的なお顔をされていらっしゃる(月詠家を(おと)すならこやつを)」

響也「っあぁぁ!!」

頭を両手で抱え込んで倒れる響也。


◆月詠家の離れ・朝

離れの庭先で使用人たちがヒソヒソと話している。

使用人1「普通、思春期に覚醒する異能が5才とは(恐ろしい)」
使用人2「異能をコントロールできず正気が(たも)てないとか(近づきたくない)」

離れの部屋にうずくまっている響也。

響也モノ『うるさい、うるさい、うるさい、ぼくだってこんな異能(ちから)いらない』


◆月詠家の離れ・昼

外でキャッキャッと子供の遊ぶ声が聞こえる。

響也モノ『…ここに子どもはぼくしかいないはず』

暗い表情で窓をそっと開ける響也

鈴理「あ」
響也「え」

茂みの影にいる鈴理(8才)と目が合う響也。

鈴理「あなた・・・かわいい!(かわいい!)」

響也をみた鈴理はキラキラと瞳を輝かせる。

響也「え?」
鈴理「どこの子(どこの子)?」
響也「どこ?」
鈴理「私は、草影の子!(私は、草影の子!)」

立ち上がった鈴理が手を伸ばす。

鈴理「ね! あそぼ(あそぼ)!」

響也モノ『声がーーーひとつだ』

そっと手を伸ばす響也。



◆現在・響也の部屋・朝

目を覚ます響也。目の前にはスゥスゥと眠っている鈴理。

響也「鈴理、僕から離れないで」

鈴理の指先にそっと口づけをする響也。
外廊下から使用人が響也に声をかける。

使用人「響也様、和眞様がお呼びです」
響也「わかった。いま行く」

部屋を静かに出ていく響也。
パタンと襖の閉まる音。

鈴理「・・・!?」

目をぱちりと開ける鈴理。
一瞬にして顔が赤くなる。

鈴理モノ『響也さん〜〜〜〜!? 曲がりなりにも護衛なので、物音とか気配で起きちゃうんです! そして指先に触れたのはなんですか!?』※早口

うわぁーと心の中で叫ぶ鈴理。

鈴理「ふぅ」

いろいろ落ち着きを取り戻した鈴理は部屋を出て行った襖を見る。

鈴理「私が離れたりするわけないのに…お護りするって約束したのですから」

普段の明るい表情とは違う、寂しげな表情でつぶやく鈴理。
それから響也が触れた指先を見た鈴理は自分の頬にあてる。

鈴理「……っ」※(いと)しげな表情





◆鳳翔高校・校舎裏・昼休み

女子1「あなた、ご自分の立場分かってらっしゃるの?」
女子2「ただの付き人のくせに、飛鳥馬様と気安くお話しされて」
女子3「そうよ。月詠様がお優しいからって、お名前を軽々しく呼ぶなど」
女子4「信じられませんわ!」

女子生徒たちに囲まれている鈴理。

鈴理モノ『これ、マンガで見たことあるやつ!!』
 ※鈴理の学校知識は主にマンガで得ている。

鈴理「まぁまぁ、みなさん落ち着いてください。それに私は付き人ではなくてーー」
女子1「まっ! ご友人だとでもおっしゃるつもり?」
女子2「お二方がお優しいからって」
女子3「お可哀想なこと」

鈴理モノ『すごい。ぜんぜん、話を聞いてくれない!』
鈴理「あのですね…」

女子4「言い訳など無用ですわ」
女子1「そのような残念な妄想される方には」
女子2「体で覚えていただきましょう」

(いか)つい男たちが女子生徒の後ろからゾロゾロと出てくる。

鈴理「わー…」

困った表情を浮かべる鈴理。



◆鳳翔高校・廊下・昼休み(鈴理の校舎裏と同時刻)

職員室から出てくる響也。

教師「それではお父上にどうぞよろしくお伝えください」
響也「えぇ。申し伝えます」

教師に見送られた響也は廊下を歩いて、教室に戻る。



◆鳳翔高校・教室・昼休み

響也「鈴理?」

教室に入ってすぐに鈴理が来ないことに違和感を感じ、鈴理がいないことに気づく。

正春「そんなところで立ち止ってどうしたの〜?」

後ろから正春が声をかけながら、響也の横を通り抜ける。
響也もゆっくり歩き出す。

響也「鈴理がいない」
正春「あれぇ、本当だ。めずらしー」

鈴理の机の上はなにもない綺麗な状態。
眉を寄せて考える響也。

正春「猇太ー。鈴理ちゃん、どこに行ったのかなぁ?」
猇太「俺が知ってるわけ」
正春「あるよねぇー?」
猇太「…はぁ。よくわからねぇけど、女子に呼ばれて喜んで出ていったぞ」
正春「なるほどー。だってさぁ響也くん」

ニコニコと笑う正春。

響也「そっか。ならすぐ戻ってくるかな」

鈴理が女子生徒と会話したがっていた雰囲気を感じていたため、女子たちと一緒と聞き、ふっと力が抜けた響也は席について待とうとする。

正春「んもぉー。2人とも鈍いなー」

頬を膨らませる正春。

猇太「はぁ゛?」
響也「どういうこと?」

2人の反応にニヤリと愉快そうに笑う正春。

正春「いままでよそよそしく離れて見てた人間が急に近付くなんてあるのかなぁってことだよー?」
響也「!」

教室の外に飛び出す響也。

正春「猇太は行かないの〜?」
猇太「アイツは護衛だぞ、自分の身ぐらい…」
正春「相手が一般人でも?」
猇太「ちっ…」

荒々しく立ち上がった猇太が教室の外に出ていく。
正春も楽しげに教室を出る。




◆鳳翔高校・校舎裏・昼休み

顔や制服が汚れている鈴理。顔や手などにかすり傷がある。

鈴理「うーん。困ったなぁ」

青ざめた女子たち。
折り重なるように気を失っている男たち。

鈴理「手加減できなかったや」

パンパンと汚れを落とす鈴理。

鈴理「さて、お嬢さん方」
女子たち「「ひっ」」
鈴理「このような手荒なことはしてはなりませんよ。みなさん可愛らしいのにですからもったいないです。それにーー」

腰に手を当て、小さい子に言い聞かせるように女の子たちに説く鈴理。

響也「鈴理っ!」
鈴理「響也さん!?」

後ろから猇太と正春が追いついて惨劇に驚きの声を出す。

猇太「うげっ」
正春「ひゅ〜」※口笛

響也がゆっくり鈴理に近づく。
鈴理の傷と汚れを目にした響也からチリリッと静電気のような音が発生する。

響也「ゆるさない」

響也の瞳から光が消え、異能が暴走しはじめる。
異能による精神干渉を使用した響也を中心に電磁波のようなモノがぶわっと波紋のように広がる。

女子たち「ひっいやー」「あぁー」
男たち「ぐわぁぁ」「がぁぁ」

女子たち、意識を失っていた男たちも半狂乱に叫び声を上げる。

猇太「くっそ」

なんとか意識を保っているものの膝を地面につけて、苦しみに耐える表情を浮かべてる猇太。

正春「っ…これが(レア)Luno(ルーノ)影響力(ちから)

冷や汗を垂らしているが、口元を歪ませ愉快そうに笑う正春。

鈴理「っ…響也さん…」

鈴理の頭の中でキィィィンと金属音が響いている。
一歩一歩、女子たちや男たちに近づいてく響也。

女子1「かっ…ひゅうひゅう」※呼吸音
響也「あぁ、君が首謀者だね」※精神干渉で記憶を読んだ。
女子1「ご、め…さ…」

なんとか謝罪を口にしようとする女1の顔に、手をかざす響也。
本能的に、ぞくりとする命の危険を感じた鈴理。

鈴理「響也さん!」

後ろから響也に抱きつく鈴理。

響也「・・・!」※響也の瞳に光が戻る。

離れた場所から見ていた猇太は苛立ちで声を上げ、正春はワクワクと楽しそうに笑う。

猇太「あのっバカ…暴走状態の能力者に近づくなんて」
正春「でも無能力なのに…ほとんど影響を受けていない…?」

暴走していた異能が消え、その場が静まりかえる。

鈴理「響也さん、私は大丈夫ですよ」※静かだけど芯のある声
響也「…鈴理」
鈴理「はい、響也さん」

ガバッと響也が振り返り、鈴理をぎゅーっと強く抱きしめる。

響也「鈴理、鈴理、鈴理…」

よしよしと響也を撫でてる鈴理。

鈴理「私は強いんです」
響也「わかっているけど、体は…ただの人だ」

スッと鈴理の腕をとる響也。
鈴理の腕にはあざや擦り傷ができている。その傷に頬をすり寄せる響也。
鈴理はくすぐったそうに笑う。

鈴理「それは響也さんもですし、異能も、無能も関係ありません。つまり、みな平等な部分ですので、競い合えるというものです!」

自信満々に胸を張って言い切る鈴理。
あまりにも場違いな鈴理の気の抜けるような言葉に、その場にいる3人の動きが止まり、しんと静まり返る。

響也「・・・」
正春「・・・」
猇太「・・・はぁ〜!? うぐっ」
正春「静かにしようねぇ」

猇太の口をふさぐ正春は静かに笑う。

響也「まったく…鈴理には(かな)わないな」
鈴理「響也さんの専属護衛ですから」

鈴理の顔を寄せ、頬を摺り寄せる響也。
クスクスと笑いあう響也と鈴理。

猇太「んぐ…っぐ〜!!」
正春「鈴理ちゃん、おもしろい子だね」

離れた場所でぽつりとつぶやく正春。

鈴理「それにしても……」

公共(がっこう)の場で抱き合っていることを思い出した鈴理は頬を染める。

響也「どうしたの?」
鈴理「これは所謂(いわゆる)、停学ってやつになるのでしょうかね?」

照れ隠しつつも、上目遣いで響也を見る鈴理。
周辺には気を失っている男女が(しかばね)のごとく転がっている。

響也「・・・」※むずかしい表情
正春「だねぇ〜」※笑っている
猇太「〜っ!(だから手を離せ!)」※怒ってる