【3話】

◆鳳翔高校の教室・朝

鈴理「おはようございます」

教室にいたクラスメイトたちが「おはよう」と返事を返す。
鈴理と響也、それぞれ席に着く。2人は隣同士。

鈴理「響也さん、本日の選択じゅ…あだっ」

ドコッと鞄を後ろぶつけられる鈴理。

猇太「あー見えなかったわー」
鈴理「猇太、あんたねぇ〜!!」

頭を押さえながら振り返る鈴理。
馬鹿にするようにフンと鼻を鳴らす猇太。

猇太「後ろがガラ空きとか素人(しろうと)か」
鈴理「はぁ〜〜!?!?」

鈴理と猇太が戦闘態勢に入ろうする。

正春(まさはる)「は〜い。ストップだよ〜。2人とも朝から元気だねぇ」
 正春:のんびり系男子。たれ目の美男子。

のんびりとした声で正春が2人の間に手を入れて止める。

正春「ほら、響也も困ってるよ〜」
鈴理「っ! 申し訳ありません!」
響也「大丈夫だよ。だけどケンカはダメだよ?」
鈴理「はい…」

鈴理モノ『響也さんには安心安全な高校生活を送ってもらおうと思ったのに……なんという悪縁』

猇太がスッと鈴理の横を通る。

猇太「怒られてやんの」※ぼそっと鈴理の耳元で囁く
鈴理「っ〜〜!!」

怒りを抑えながら、椅子に座る鈴理。

鈴理モノ『こいつ、草柳(くさやなぎ) 猇太は私と同じく忍びの血をひく人間で、私のいとこである。年下のくせに小さい頃から私に突っかかってきていた。まさかこんなところで再会するなんて』

正春「鈴理ちゃん、ごめんよ〜」
鈴理「いえっ。止めてくださってありがとうございます」
正春「猇太のこと、オレが注意しとくから許してあげてねぇ」

ふんわりと鈴理に微笑みかける正春。

鈴理モノ『この方は、飛鳥馬(あすま) 正春様。現在、猇太が仕えている主人であり、月詠家に並ぶ名家である飛鳥馬家のご子息。さすがLuno(ルーノ)(つど)う学校というべきか』

鈴理「え、えっと…」
響也「よろしくお願いするよ」

返事を言いよどむ鈴理の声に重ねるように、響也が代わりに返事をする。
微笑んでいるが響也の瞳には強く鋭い。
にこりと笑う正春。

正春「まかせてぇ」

ひらりと手を振り、正春も自分の席に着く。
気持ちが落ち着いてきた鈴理は反省する。

鈴理「響也さん、申し訳ありません。お見苦しいものを…」
響也「ううん。仕方がないよ。Luno(ルーノ)クラスは特にセキュリティ厳重になっているからね」
鈴理「いいえ…不覚です…アイツがいるのにっ」

鈴理モノ『教育と言いつつ、保護も兼ねているためLuno(ルーノ)はクラス単位でまとめられ警護しやすいようになっている』
 ※能力が高い人=身分が高い人が多い傾向があるため、クラスは能力が高い順ごとで振り分けられる。

鈴理モノ『私は響也さんの護衛ということもあり、無能力だけどLuno(ルーノ)クラスにいる。そう、つまりアイツの言う通り、背後を取られるなんて護衛失格だわ! 気を引き締めないと!』

闘志に燃える鈴理の様子を見て、ふむと、なにか考える仕草をする響也。



◆体育館のコート中心周辺・昼

ジャージ姿の生徒たちが集まっている。

先生「体力テストの前に、各自しっかり柔軟して準備運動するように」

先生がパンパンと手を鳴らして指示を出す。
一部の生徒がぼやく。

生徒1「あー、だるい」
生徒2「旧式時代過ぎるっしょ」

鈴理モノ『その気持ちもわからないわけでもないけど、Luno(ルーノ)は異能を過信して基礎体力が低い人が多くて警護に影響が出るから、学校側の内部調査もかねたテストなんだよね』

ほかペアになっているクラスメイトたちの様子を確認する鈴理。

鈴理モノ『あとーー他家の関係性も確認できる』

正春「響也〜! 体格近いし、オレと一緒に柔軟しよー」
響也「そうだね」

鈴理モノ『響也さんが同世代のご友人と気さくに話されている! いままで月詠財閥が大きすぎてギクシャクしてましたから…よかったですね!!』
 ※お母さん的な目線で感動している。

鈴理モノ『さてと、私もどなたかと柔軟を』

目があった女子生徒に声をかける鈴理。

鈴理「あ、よかったら、一緒に!」
女子1「ごっごめんさい。すでに相手がいて」

ササッと断る女子1を見送り、次に1人で立っていた女子2に声をかける。

鈴理「もし、相手がいないなら私と一緒にやりません?」
女子2「え、じゃあ・・・ごめんなさい。先に声をかけている方がいて…」

鈴理の顔を見て固まったあと、目をそらしながら断り去っていく女子2。

鈴理「ふー・・・」

室内にいるが太陽の日差しを浴びているような仕草で天井を見上げる鈴理。

鈴理モノ『通いはじめて気づいた。由緒ある名門校とはいえ、暗黙の了解とも言える見えない階級(カースト)があること。気持ちはわかる。5大財閥の内、月詠家、飛鳥馬家と一緒にいる人間なんて萎縮しちゃいますよねー」

クラスで浮いていることを身に染みた鈴理は心の中で泣く。

鈴理モノ『それにーー同級生であっても響也さんのことを一般生徒(と言っても、名のある企業のご令嬢ご令息)たちがフツーに「響也様」と”様”呼びされていたし』



◆回想・響也の部屋

鈴理「あ、あの響也さん。クラスメイトのみなさん、”様”呼びされてますよね…?」
 ※2話で「同級生で様呼びって変だよね」と響也に言われたため。

響也「ごめんね、鈴理」

イタズラが見つかったような子供のような表情をする響也。

響也「気軽に話せる相手が欲しくて…こんなちっぽけな事で嘘をつく僕のこと嫌い?」※困り顔

響也は鈴理が自分の困り顔に弱いことを知っていて計算して行動している。
うっと心揺さぶられる鈴理。

鈴理「いいえ! 嫌いになるわけありません! むしろ響也さんのお気持ちを察することができず申し訳ありません!」
響也「じゃあ、僕のこと好き?」
鈴理「もちろんです!!」



◆現在・体育館のコート中心周辺・昼

鈴理モノ『じゃっかん、はぐらかされたような気がしないわけでもないけど。これが男の子の成長ってやつね』

うんうんとひとりうなずく鈴理。

鈴理モノ『なにより「嘘をついて嫌いになった?」と聞く、優しく純粋な心をもつ響也様の愛らしいこと…』

ニコニコと笑っている鈴理の前に、ぬっと現れる猇太。

猇太「鈴理、なにお前ひとりでニヤニヤしてるんだ」
鈴理「げっ」
猇太「ぼっちで頭おかしくなったか」
鈴理「失礼ね! 違うわよ」
猇太「俺が組んでやろうか?」
鈴理「はぁ? 体格が違うでしょうがどこに目がついてんのよ」
 など猇太と鈴理が口喧嘩を続ける。



◆体育館のコート端・昼

猇太と鈴理が話している様子を離れた場所から見ている響也。
響也には鈴理が自分には見せない表情をしているように見え、じりっと焦げ付くような感情がこぼれる。

正春「あーいうのがケンカするほど仲がいいってやつだよねぇ」

ひょこりと響也の後ろから顔を出す正春。

響也「そうかもね」※そっけない返事
正春「まぁまぁ。言ったとおり手は出してないからーふふっ」
 ※3話冒頭の言い聞かせるから〜をふまえての言葉。

響也「手を出したら…どうなるか見たいのかな?」

ふだん鈴理に見せる笑顔とは真逆の冷たく(よど)んだ笑顔の響也。

正春「まさかまさか〜」

両手をひらひらと左右にふり、おどけた表情でへらりと笑う正春。

響也「ならよかった。僕も君のような優秀なLuno(ルーノ)を失いたくないから」
正春「わぁーありがとう」

ビジネスライクなやりとりをする響也と正春。

先生「おーい。集合ー」

遠くで先生が生徒たちに集合の声かけをする。

響也「じゃあ、はじまるみたいだし行こう」
正春「そーだねぇ」

歩きはじめた響也を見ながら、正春がぽつりとつぶやく。

正春「面白いなぁ。本当、噂ってアテにならないよねー」

ふふっと新しいオモチャを見つけたように楽しそうに笑う正春。



◆体育館・壁際・昼

鈴理、壁際に立ってクラスメイトを観察中。

女子3「握力20kgいかなかったー」
女子4「よわっ。一応、20は超えたよ」

鈴理モノ『ふむふむ。一般的な女子はそれぐらいなのね。私は一応、護衛として学校側には申請しているからほどほどに。本気を出しすぎないようにしないと…』

女子たちの会話を聞きながら体力テストの調整を考える鈴理。

鈴理モノ『護衛でわざわざ自分の限界値(ほんき)を見せるような間抜けはいないと思うけど』
 ※限界=弱点になりうる可能性があるため。



◆体育館のコート端・昼

20mシャルトランのため、スタートラインに生徒たちが並びはじめている。

響也「猇太くん、一緒のグループだね。お手柔らかにお願いするよ」
猇太「どーも。よろしくお願いします」

ほかのクラスメイトたちと違い、響也に物怖じせず、フンと生意気な態度をとる猇太。

響也「猇太くんは僕の(●●)鈴理とは仲がいいよね」
猇太「はっ!? べつに腐れ縁ってだけだっ」

響也の言葉に動揺する猇太。

響也「へぇ」

さらりと流した響也に、ハタと気を取り直して話題をそらす猇太。

猇太「つか、僕のって、お前もどこぞの金持ち様と同じで護衛をモノ扱いかよ…鈴理の血の匂いさせて何させてんだが…」
響也「君は嗅覚が優れたLuno(ルーノ)だったね 。安心してよ、僕が鈴理をモノ扱いなんてしてないから」

目を細めて冷たく微笑する響也。
自分の異能を把握していることに驚きながらも、響也の微笑にぎくりとなった猇太は舌打ちをする。

猇太「ちっ。どうだか」



◆体育館・壁際・昼

とことこと歩く鈴理。指おりをしながら残りの競技数を考えている。

鈴理『握力、上体おこし、前屈、反復横とびが終了、あと室内で行うのはシャトルランだけね』

遠くで「わぁ」と歓声が上がる。

鈴理「?」

歓声した方を振り返る鈴理。

生徒1「シャトルラン、すごいぞ」
生徒2「100超えするんじゃね」
生徒3「1人は月詠らしいぞ」

鈴理の前をバタバタと慌ただしく移動する生徒たち。

鈴理『響也さん!?』



◆体育館のコート中央・昼

苦しげな表情で走っている響也と猇太。

響也「はっはっ」
猇太「はっはっ」

タララララン ポーンとシャトルランの音楽が流れる。

正春「あ、鈴理ちゃーん」

すでにリタイアして服をパタパタとあおいでいる正春が、鈴理を見つけて手をヒラヒラと振っている。

鈴理「正春様、これはどういう状況でしょうか…?」
正春「うーん。男の意地かなぁ?」
鈴理「意地、ですか…?」

意味がわからず、響也と猇太が走る姿をチラリと見る鈴理。

鈴理モノ『というか、猇太ったら本意気じゃない』

響也の視界に、正春の隣にいる鈴理が入る。
鈴理も響也と視線が合う。

響也「っ…」

男らしく笑う響也にドキッとする鈴理。

鈴理モノ『響也さん』

周りの音が聞こえなくなるぐらい、走る響也に夢中になる鈴理。

電子音「〜♪ ポーン 126」
 ※125以上で10点(満点)

飛び込むように鈴理のもとにくる響也。その場で膝をつき、息を整える。

鈴理「響也さん、お疲れ様です! すごいです! 素晴らしいです! いつの間に鍛えてらっしゃったんですか!?」

キラキラと興奮気味に話しかけながら、響也の背中を撫でる鈴理。

響也「はっ…はっ…鈴理に迷惑かけられないからね」
鈴理「私のために…!!」

胸がきゅーんとする鈴理。

響也「驚いた?」
鈴理「もちろんです! 私も響也さんに負けないよう、もっともっと精進しますね!」

鈴理の答えに驚きつつ、困ったように笑う響也。

響也「・・・心強いよ」
鈴理「はい!」

電子音「〜♪ ポーン 128」

走るのを止めた猇太が腕で汗を拭きながら、響也と鈴理の様子を見ている。

正春「おつかれさま〜まだ走れるんじゃないのー?」
猇太「いつ止めるかは…俺の自由だろ」

スッと機嫌悪そうに、正春の横を通り過ぎていく猇太。

正春「そうだねぇ。この学校に来てよかったよ」

ひとり、愉快そうに笑う正春。



◆響也の部屋・夜

ほかほか湯上りの響也の目の前に鈴理。

鈴理「マッサージいたします! ささ、お布団の上に寝てくださいまし」

横になった響也の足をマッサージする鈴理。

響也「んっ…」
鈴理「いくら鍛えたと言っても、明日、筋肉痛になるかと思いますので、すこしでもその痛みをやわらげましょう」

せっせとマッサージをしながら、響也の身体の変化に驚く。

鈴理モノ『腕も足も筋肉がついて大きくなられて…いつも見ているのに気づかなったなぁ』

ふふっとなる鈴理。

鈴理「さぁ、終わりました。ごゆっくりおやすみなさいませ」
響也「ありがとう、鈴理。もうひとつ、お願いしてもいいかな」
鈴理「もちろん、ご用命とあれば!」
響也「一緒に寝よう」
鈴理「・・・はい?」

腕を引いて、鈴理を座らせる響也。鈴理の首元に顔を近づけて息を吸い込む。

響也「鈴理、僕のために湯冷めしてしまったでしょ」
鈴理「あ、あのっ響也さん!?!?」
響也「僕は鈴理のおかげで温かいよ。ね、僕も鈴理になにかお礼させて」
鈴理「え、あの、わぁ!?」

バサっと布団の中に鈴理を引き込む響也。
がっしりとした響也の腕にドキドキする鈴理。

鈴理「あ、あの…」
響也「今夜は一緒に寝よう」

鈴理の耳元でささやく響也。

鈴理「っ」

響也の吐息で肌にかかりビクッとなる鈴理。
顔を赤くしながら潤んだ目をする鈴理の様子にご満悦響也。

鈴理モノ『えぇ〜〜〜〜〜〜〜』