【2話】
◆月詠家本宅・床の間・昼
状況が分からず固まっている鈴理。
和眞「おや? 響也、鈴理に伝えていないのかい?」
響也「伝えましたよ? ただちょっと…慌ただしかったので聞き逃してしまったのかもしれません」
目をぱちりと瞬かせた響也が申し訳なさそうに眉を下げる。
鈴理「え゛!?」
響也「ほら、この前、鈴理が焚き火効果について教えてくれた日だよ」
困ったように微笑む響也。
響也の言葉に記憶を振り返る鈴理。
鈴理「・・・!」
ハッとした鈴理の脳内に、写真を焼く話を語った場面(1話終わり)が浮かぶ。
鈴理モノ『誘拐救出後か〜〜!!!!』
鈴理は頭を抱えて心の中で叫ぶ。
響也「鈴理は僕のことになると、周りが見えなくなっちゃうってわかってるのに…ごめんね」
鈴理「いっいいえ! 響也様は悪くありません! 響也様との思い出に浸って聞き逃してしまった私が至らなかったのです」
響也に謝られてしまい、慌てる鈴理。
響也と鈴理の様子をニコニコと穏やかに見ている和眞。
和眞「ふふ。鈴理は相変わらずのようだね」
鈴理「も、申し訳ありません」
和眞「謝らなくていいよ。鈴理が真剣に響也のことを考えているって理解るから。それに響也も」
和眞が響也に目線を動かす。
和眞「理解るね?」
穏やかな眼差しから一転して鋭くなる和眞に対して、にこりと笑って返す響也。
響也「はい。申し訳ありません」
鈴理は、響也と和眞の間でオロオロと視線を動かしている。
和眞がため息をつく。
和眞「じゃあ、この話は終わりだね。2人共、ちゃんと準備を進めるんだよ」
響也「はい」
鈴理「は、はいっ」※条件反射的な返事
◆月詠家本宅・廊下
鈴理「って、思わず返事しちゃったけど、冷静に考えて無理ですって!」
青ざめる鈴理。面白そうに笑う響也。
2人は渡り廊下を歩いている。
響也「無理じゃないよ」
鈴理「響也様、私、今年19、来年には20歳ですよ!?」
響也「そうだね」
鈴理「20歳の高校生って、制服を着るなんて・・・」
顔を両手で覆う鈴理。
鈴理モノ『痛すぎる……』
響也、アゴに指先をあててすこし考える。
響也「大丈夫だよ。鈴理は忍びの血をひくんだから、できないわけないよ」
鈴理「?」
響也「ある意味、潜入任務でしょ?」
鈴理「な、なるほど。たしかにそう考えれば…できます…でも10代ならいざ知らず…いや入学時はギリギリ10代…でも年齢差的に考えると…」
ぶつぶつと考えがダダ漏れの鈴理。
鈴理の「年齢差」という言葉にぴくりと響也の目元が動く。
響也「鈴理」
名前を呼ばれて顔を上げる鈴理。
響也は鈴理をまっすぐ見ている。
響也「僕は鈴理と一緒に学校に通いたいんだ」
鈴理「え」
響也「鈴理はいつも僕を1番に考えてくれていて…修行だって言って、高校に通わず僕の護衛についてくれた。嬉しかったけど申し訳ないなって…」
鈴理「そんなっ私は響也様の近くにいれることが至福の喜びで」
響也「うん。わかってる。でも鈴理にも高校生活してほしいなって、僕と一緒なら高校生活できるかなって思って…僕の我が儘だったね」
寂しそうに笑う響也。
鈴理は響也の「我が儘」という言葉がキューっと胸に響く。
鈴理モノ『響也様の我が儘!!!』
鈴理「お任せください! 響也様が望むなら火の中、水の中、高校の中やり遂げてみせましょう!」
普段あまり我が儘を言わない響也の望みを叶える!と意気込み、反射的に言いきる鈴理。
響也「鈴理、ありがとう」
キラキラと満面の笑みを浮かべる響也に、ほわわ〜と癒される鈴理。
響也「じゃ、準備進めなくちゃね」
鈴理「はい!」
響也「制服はもう届いているからサイズ確認しよう」
鈴理「はい!・・・あ」
鈴理モノ『・・・引き受けてしまったー!!』
月詠家の庭園にある獅子落としが、カコンと鳴る。
◆響也の自室・昼
鈴理「響也様、お似合いです!」
瞳を輝かせる鈴理。
学校の制服を着用している響也。
響也「ありがとう。鈴理も似合っているよ」
鈴理「うえっ!? 変じゃ、ありません…?」
響也「大丈夫、可愛い」※響也発注なのでサイズが合っててご満悦
鈴理「ぐぅ……そういう言葉は女の子に気軽に言ってはいけませんよ。好意と勘違いされてしまいます」
鈴理は照れつつも、響也に真面目顔で注意する。
響也「うん、鈴理にたくさん言うね」
鈴理「えっ! はっ!? まっまぁ…私は弁えておりますので…勘違いはしませんけど…」※赤面しつつ段々声が小さくなる鈴理。
鈴理モノ『響也様も高校生…恋とかしたい年頃ですよね…月詠家的には難しいから…せめて安心安全な高校生活を、この鈴理が必ずや!』
響也「ふふ、高校がはじまるの楽しみだね」
鈴理「は、はい! それにしても準備はもう必要なさそうですね」
周りを見渡す鈴理。
学校の書類やカバン、教科書などが揃っている。
鈴理「私の制服まで準備出来ているなんて、もし断っていたらどうするなさるつもりだったんですか」
響也「鈴理は断らなかったでしょ」
鈴理「う、そうですけど」
たじたじして、うろたえる鈴理。
鈴理モノ『迷いましたが、私が響也様の我が儘を断るわけないです』
響也「あ、そうだ。大事な準備を忘れてたよ」
鈴理「え? 入学前に準備できる物はすべて揃っていると思いますが」
机の上に置かれていた【入学準備のご案内】と書かれている紙を手に取って確認する、鈴理。
目を細めて鈴理を見る響也。
響也「鈴理」
鈴理「はい」
響也「春から僕たちは同じ高校に入学する、つまり」
鈴理「つまり?」
響也「僕たちは同級生」
鈴理「そう、ですね? 響也様?」
響也が何を言うのか予想がつかず[?]マークが頭の周りに飛んでいる鈴理。
響也「同級生なのに、様って呼ぶのは変だよね?」
鈴理「言われてみれば…たしかに変かも?」
※鈴理はあまり学校に通っていなかったため一般的な学生情報が少なく判断に自信がない。
響也「うん、だからね。僕のことは響也って呼び捨てしてね」
鈴理「わかりました。響也様を呼び捨てで・・・呼び捨て!?!?」
驚きで固まる鈴理。
ニコニコと笑う響也。
響也「名字だと、家と区別がつきにくくなっちゃうからね」
鈴理「そ、そそんな…恐れ多い…」
響也「大丈夫だよ。父上にも話してあるから、家で僕のこと呼び捨てしても誰も咎めることはできないし、させないから安心して」
鈴理「それなら…って、和眞様にも話してるんですか!?」
ぐるぐると混乱する鈴理。
響也「ね、鈴理。ほら言ってみて」
鈴理「でっでも…」
響也「お願い」
鈴理「う〜・・・」
目線が泳ぐ鈴理。響也のお願いに弱い鈴理がチラリと響也の様子を隠れ見る。
響也の期待に満ちた顔に観念して、迷いながら口を開く鈴理。
鈴理「きょ、響也・・・」
瞳が大きくなる響也。
鈴理「さん」
響也「・・・」
鈴理「すみません! さん付け、でお願いします!」
必死にお願いする鈴理。
途中でハッとして顔を赤くしながら鈴理がモニョモニョと言い訳をはじめる。
鈴理「あ、あの、その、なんかこう、気恥ずかしいと言いますか、いますぐというのはちょっと」
響也「まぁ、いまはそれでいいか」※小さい独り言
赤面している鈴理に満足げに笑う鈴理。
鈴理「その、えっと…響也様のお願いを叶えることができず申しわ…」
響也「違うよ、鈴理」
スッと響也の両手が鈴理の顔をすくい上げる。
響也「入学まで言い間違えないように練習しないとね」
鈴理「はひ?」
◆時間経過・日が暮れはじめている。
目を細めて、妖しく微笑む響也。
背中側に陽射しがあり、響也の顔には影ができている。
響也「うん。もう一度、言ってみて?」
座り込んでいる鈴理の前に立つ、響也。
鈴理の顔は響也の手によって包み込むように持ち上げられている。
鈴理「きょ、響也さ・・・」
瞳がうるみ緊張した表情だが、内心ではぐるぐると困惑している鈴理。
鈴理モノ『そ、そう、これは練習』
目を細めて、妖しく微笑む響也。
鈴理モノ『全速力で走った後みたいに心臓がドキドキしている』
響也「鈴理。ね、もう一度だよ?」
鈴理の喉がコクリと動く。
鈴理「響也、さん」
響也「もう一度」
鈴理「響也さん」
響也「ふふっ詰まらずに言えるようになってきたね」
鈴理「あ、あの…」
響也の指が鈴理の喉をするりと撫でる。
響也「これからたくさん呼んで、声帯に覚えさせてね」
鈴理「んっ…はい」
陽が落ちて、室内が暗くなる。
鈴理モノ『なんか響也様が意地悪なんですけど〜!?!?』
ドキドキという自分の心臓の音に埋め尽くされる鈴理。
◆鳳翔高校の教室・朝
ーーー高校初日
鈴理モノ『ついに高校生活がはじまる。3年間、年上だとバレずに卒業する!』
ぐっと握り拳をつくる鈴理。
響也「鈴理、どうしたの?」
ひょこっと顔を出す響也。
鈴理「響也さん」
鈴理モノ『連日、響也さんによる恥ずかしいレッスンのおかげで、こうしてスムーズに言えるようになった』
鈴理の脳内に連日の名前呼びレッスン風景が駆け巡り、カァ〜と顔を赤くする。
鈴理「き、気合を入れてました!」
響也「ふふっ。ここは国内イチのセキュリティを誇る学校だよ」
鈴理「ですが、私が同じクラスになったからには響也さんをお護りしますからね!」
◆鳳翔高校の外観
鈴理モノ『ここ、私立鳳翔高校の歴史は長く、華族が中心となって創立された。
そのため名だたる企業のご子息ご令嬢が通う由緒ある学校としてはもちろん、国家認定の”Luno”クラスがある名門校だ』
◆鳳翔高校の教室・朝
教室の前にあるボードに掲示されている座席表に人が集まっている。
鈴理「響也さん、座席を確認しましょう!」
鈴理も確認しようと、人だかりの方に進む。
響也「鈴理、前っ」
鈴理「え」
猇太「うおっ」
猇太:体育会系男子。大雑把で口が悪い。
鈴理と猇太がぶつかる。
後ろに倒れそうになる鈴理の手を取り、体を引き寄せる猇太。
猇太「わりぃ。ちっこくて見えなかったわ」
鈴理「いえ、こちらも前を確認してなくて…って、こ、猇太!?」
猇太「鈴理?」
鈴理と猇太が顔を見合わせる様子を、昏い眼差しで見る響也。
◆月詠家本宅・床の間・昼
状況が分からず固まっている鈴理。
和眞「おや? 響也、鈴理に伝えていないのかい?」
響也「伝えましたよ? ただちょっと…慌ただしかったので聞き逃してしまったのかもしれません」
目をぱちりと瞬かせた響也が申し訳なさそうに眉を下げる。
鈴理「え゛!?」
響也「ほら、この前、鈴理が焚き火効果について教えてくれた日だよ」
困ったように微笑む響也。
響也の言葉に記憶を振り返る鈴理。
鈴理「・・・!」
ハッとした鈴理の脳内に、写真を焼く話を語った場面(1話終わり)が浮かぶ。
鈴理モノ『誘拐救出後か〜〜!!!!』
鈴理は頭を抱えて心の中で叫ぶ。
響也「鈴理は僕のことになると、周りが見えなくなっちゃうってわかってるのに…ごめんね」
鈴理「いっいいえ! 響也様は悪くありません! 響也様との思い出に浸って聞き逃してしまった私が至らなかったのです」
響也に謝られてしまい、慌てる鈴理。
響也と鈴理の様子をニコニコと穏やかに見ている和眞。
和眞「ふふ。鈴理は相変わらずのようだね」
鈴理「も、申し訳ありません」
和眞「謝らなくていいよ。鈴理が真剣に響也のことを考えているって理解るから。それに響也も」
和眞が響也に目線を動かす。
和眞「理解るね?」
穏やかな眼差しから一転して鋭くなる和眞に対して、にこりと笑って返す響也。
響也「はい。申し訳ありません」
鈴理は、響也と和眞の間でオロオロと視線を動かしている。
和眞がため息をつく。
和眞「じゃあ、この話は終わりだね。2人共、ちゃんと準備を進めるんだよ」
響也「はい」
鈴理「は、はいっ」※条件反射的な返事
◆月詠家本宅・廊下
鈴理「って、思わず返事しちゃったけど、冷静に考えて無理ですって!」
青ざめる鈴理。面白そうに笑う響也。
2人は渡り廊下を歩いている。
響也「無理じゃないよ」
鈴理「響也様、私、今年19、来年には20歳ですよ!?」
響也「そうだね」
鈴理「20歳の高校生って、制服を着るなんて・・・」
顔を両手で覆う鈴理。
鈴理モノ『痛すぎる……』
響也、アゴに指先をあててすこし考える。
響也「大丈夫だよ。鈴理は忍びの血をひくんだから、できないわけないよ」
鈴理「?」
響也「ある意味、潜入任務でしょ?」
鈴理「な、なるほど。たしかにそう考えれば…できます…でも10代ならいざ知らず…いや入学時はギリギリ10代…でも年齢差的に考えると…」
ぶつぶつと考えがダダ漏れの鈴理。
鈴理の「年齢差」という言葉にぴくりと響也の目元が動く。
響也「鈴理」
名前を呼ばれて顔を上げる鈴理。
響也は鈴理をまっすぐ見ている。
響也「僕は鈴理と一緒に学校に通いたいんだ」
鈴理「え」
響也「鈴理はいつも僕を1番に考えてくれていて…修行だって言って、高校に通わず僕の護衛についてくれた。嬉しかったけど申し訳ないなって…」
鈴理「そんなっ私は響也様の近くにいれることが至福の喜びで」
響也「うん。わかってる。でも鈴理にも高校生活してほしいなって、僕と一緒なら高校生活できるかなって思って…僕の我が儘だったね」
寂しそうに笑う響也。
鈴理は響也の「我が儘」という言葉がキューっと胸に響く。
鈴理モノ『響也様の我が儘!!!』
鈴理「お任せください! 響也様が望むなら火の中、水の中、高校の中やり遂げてみせましょう!」
普段あまり我が儘を言わない響也の望みを叶える!と意気込み、反射的に言いきる鈴理。
響也「鈴理、ありがとう」
キラキラと満面の笑みを浮かべる響也に、ほわわ〜と癒される鈴理。
響也「じゃ、準備進めなくちゃね」
鈴理「はい!」
響也「制服はもう届いているからサイズ確認しよう」
鈴理「はい!・・・あ」
鈴理モノ『・・・引き受けてしまったー!!』
月詠家の庭園にある獅子落としが、カコンと鳴る。
◆響也の自室・昼
鈴理「響也様、お似合いです!」
瞳を輝かせる鈴理。
学校の制服を着用している響也。
響也「ありがとう。鈴理も似合っているよ」
鈴理「うえっ!? 変じゃ、ありません…?」
響也「大丈夫、可愛い」※響也発注なのでサイズが合っててご満悦
鈴理「ぐぅ……そういう言葉は女の子に気軽に言ってはいけませんよ。好意と勘違いされてしまいます」
鈴理は照れつつも、響也に真面目顔で注意する。
響也「うん、鈴理にたくさん言うね」
鈴理「えっ! はっ!? まっまぁ…私は弁えておりますので…勘違いはしませんけど…」※赤面しつつ段々声が小さくなる鈴理。
鈴理モノ『響也様も高校生…恋とかしたい年頃ですよね…月詠家的には難しいから…せめて安心安全な高校生活を、この鈴理が必ずや!』
響也「ふふ、高校がはじまるの楽しみだね」
鈴理「は、はい! それにしても準備はもう必要なさそうですね」
周りを見渡す鈴理。
学校の書類やカバン、教科書などが揃っている。
鈴理「私の制服まで準備出来ているなんて、もし断っていたらどうするなさるつもりだったんですか」
響也「鈴理は断らなかったでしょ」
鈴理「う、そうですけど」
たじたじして、うろたえる鈴理。
鈴理モノ『迷いましたが、私が響也様の我が儘を断るわけないです』
響也「あ、そうだ。大事な準備を忘れてたよ」
鈴理「え? 入学前に準備できる物はすべて揃っていると思いますが」
机の上に置かれていた【入学準備のご案内】と書かれている紙を手に取って確認する、鈴理。
目を細めて鈴理を見る響也。
響也「鈴理」
鈴理「はい」
響也「春から僕たちは同じ高校に入学する、つまり」
鈴理「つまり?」
響也「僕たちは同級生」
鈴理「そう、ですね? 響也様?」
響也が何を言うのか予想がつかず[?]マークが頭の周りに飛んでいる鈴理。
響也「同級生なのに、様って呼ぶのは変だよね?」
鈴理「言われてみれば…たしかに変かも?」
※鈴理はあまり学校に通っていなかったため一般的な学生情報が少なく判断に自信がない。
響也「うん、だからね。僕のことは響也って呼び捨てしてね」
鈴理「わかりました。響也様を呼び捨てで・・・呼び捨て!?!?」
驚きで固まる鈴理。
ニコニコと笑う響也。
響也「名字だと、家と区別がつきにくくなっちゃうからね」
鈴理「そ、そそんな…恐れ多い…」
響也「大丈夫だよ。父上にも話してあるから、家で僕のこと呼び捨てしても誰も咎めることはできないし、させないから安心して」
鈴理「それなら…って、和眞様にも話してるんですか!?」
ぐるぐると混乱する鈴理。
響也「ね、鈴理。ほら言ってみて」
鈴理「でっでも…」
響也「お願い」
鈴理「う〜・・・」
目線が泳ぐ鈴理。響也のお願いに弱い鈴理がチラリと響也の様子を隠れ見る。
響也の期待に満ちた顔に観念して、迷いながら口を開く鈴理。
鈴理「きょ、響也・・・」
瞳が大きくなる響也。
鈴理「さん」
響也「・・・」
鈴理「すみません! さん付け、でお願いします!」
必死にお願いする鈴理。
途中でハッとして顔を赤くしながら鈴理がモニョモニョと言い訳をはじめる。
鈴理「あ、あの、その、なんかこう、気恥ずかしいと言いますか、いますぐというのはちょっと」
響也「まぁ、いまはそれでいいか」※小さい独り言
赤面している鈴理に満足げに笑う鈴理。
鈴理「その、えっと…響也様のお願いを叶えることができず申しわ…」
響也「違うよ、鈴理」
スッと響也の両手が鈴理の顔をすくい上げる。
響也「入学まで言い間違えないように練習しないとね」
鈴理「はひ?」
◆時間経過・日が暮れはじめている。
目を細めて、妖しく微笑む響也。
背中側に陽射しがあり、響也の顔には影ができている。
響也「うん。もう一度、言ってみて?」
座り込んでいる鈴理の前に立つ、響也。
鈴理の顔は響也の手によって包み込むように持ち上げられている。
鈴理「きょ、響也さ・・・」
瞳がうるみ緊張した表情だが、内心ではぐるぐると困惑している鈴理。
鈴理モノ『そ、そう、これは練習』
目を細めて、妖しく微笑む響也。
鈴理モノ『全速力で走った後みたいに心臓がドキドキしている』
響也「鈴理。ね、もう一度だよ?」
鈴理の喉がコクリと動く。
鈴理「響也、さん」
響也「もう一度」
鈴理「響也さん」
響也「ふふっ詰まらずに言えるようになってきたね」
鈴理「あ、あの…」
響也の指が鈴理の喉をするりと撫でる。
響也「これからたくさん呼んで、声帯に覚えさせてね」
鈴理「んっ…はい」
陽が落ちて、室内が暗くなる。
鈴理モノ『なんか響也様が意地悪なんですけど〜!?!?』
ドキドキという自分の心臓の音に埋め尽くされる鈴理。
◆鳳翔高校の教室・朝
ーーー高校初日
鈴理モノ『ついに高校生活がはじまる。3年間、年上だとバレずに卒業する!』
ぐっと握り拳をつくる鈴理。
響也「鈴理、どうしたの?」
ひょこっと顔を出す響也。
鈴理「響也さん」
鈴理モノ『連日、響也さんによる恥ずかしいレッスンのおかげで、こうしてスムーズに言えるようになった』
鈴理の脳内に連日の名前呼びレッスン風景が駆け巡り、カァ〜と顔を赤くする。
鈴理「き、気合を入れてました!」
響也「ふふっ。ここは国内イチのセキュリティを誇る学校だよ」
鈴理「ですが、私が同じクラスになったからには響也さんをお護りしますからね!」
◆鳳翔高校の外観
鈴理モノ『ここ、私立鳳翔高校の歴史は長く、華族が中心となって創立された。
そのため名だたる企業のご子息ご令嬢が通う由緒ある学校としてはもちろん、国家認定の”Luno”クラスがある名門校だ』
◆鳳翔高校の教室・朝
教室の前にあるボードに掲示されている座席表に人が集まっている。
鈴理「響也さん、座席を確認しましょう!」
鈴理も確認しようと、人だかりの方に進む。
響也「鈴理、前っ」
鈴理「え」
猇太「うおっ」
猇太:体育会系男子。大雑把で口が悪い。
鈴理と猇太がぶつかる。
後ろに倒れそうになる鈴理の手を取り、体を引き寄せる猇太。
猇太「わりぃ。ちっこくて見えなかったわ」
鈴理「いえ、こちらも前を確認してなくて…って、こ、猇太!?」
猇太「鈴理?」
鈴理と猇太が顔を見合わせる様子を、昏い眼差しで見る響也。


