「ちょっと〜ご飯できてるけどー?」

「んんんぅ……」

いい匂いがする。私の好きな具たっぷりのお味噌汁だ。
もう起きれるけど、私はわざと寝たフリをする。

「こーらっ!笑……おはよ、かのか」

「ん、おはよ、蒼空」

ぐいっとベッドから引っ張りあげてくれる。
この時間が、大好きだ。

私、花宮かのかと彼、佐名木蒼空は幼馴染であり、今は同棲している恋人だ。

蒼空とは、なんと生まれた日も病院も同じだ。

お母さん同士が仲良くなって、まさかの家も隣で、正真正銘ずっと一緒に生きてきたって感じ。

ずっと家族みたいな感じで、お互いの家を行き来したり旅行も一緒に行ったり。

もちろん学校も遊ぶのもずーっと一緒だった。

ふざけながら帰るあの帰り道。よく遊んだあの公園。

'家族'から'異性'に変わったのは中学生の頃だった。

周りが好きな人が出来たとか付き合うとか、そういう話をしだした時。

「なぁ、えっと、かのかは、好きな人、いるのか?」

「...えっ?!ど、どうして、?」

「……いや、特に理由は無い、。」

「なにそれ笑 蒼空は?いるの?」

「...おれはぁ、。……いる、」

「えっ誰?!私の知ってる人?隣のクラスの苗木さん?可愛いよねあの子!」

「おい、笑 勝手に話進めんなよ笑 ちげーわ!」

「笑笑ごめんごめん」

いつもの公園、いつものベンチ、いつものチャイム。

いつもとは違う、蒼空。

夕焼けに照らされたほんのり赤い蒼空の横顔は、いつも見上げるのとは少し、違うように見えた。

𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄

「なんか、蒼空が大人っぽくなった」

「え?」

「蒼空のくせに恋とかしちゃって」

「かのか、拗ねてんの?」

「ちがう」

「んー...」

いつもの公園、夏休み前の終業式が終わって寄り道した。

蝉が近くの木で鳴いていた。

みーんみんみんみん……


ジリジリとした日差しに、上手く目を開けられなかった。

いや、上手く開けられなかったのは日差しのせいだけじゃないかもしれない。

「かのか」

隣を見れない。

だって見たら、負ける気がするから。

「……かのか」

「……なに」

「こっち見て」

「…やだ」

「なんで」

「なんでも」

素直になれない、自分が嫌だ。

答えなんて出てる。

なんでこんなにも顔が見れないのか。

なんで上手く息が吸えないのか。


……なんでこんなにも、胸が痛いのか


蒼空が、立ち上がって私の前に立った。

「かのか、俺、好きな人がいるって言ったじゃん」

「うん。」

「俺、...」

いやだ、聞きたくない。

蒼空の好きな人なんて、聞きたくない...。

だって、


だって私は、蒼空が……


「俺、かのかが好きだ。」