朝の光がカーテンの隙間からこぼれて、部屋の空気を優しく照らしている。

テーブルの上には、いつものマグカップ。

ペアで買ったマグカップ。

けれど、隣で一緒に使ってくれる人はもういない。

お湯を沸かす音、扇風機の音、遠くで鳴いている蝉の声。

世界は今日も、変わらず進んでいく。

まるでなにも無かったかのように。

私はゆっくりと両手でカップを包む。

あたたかいミルクコーヒーの奥に、あのぬくもりを探してしまう。

あの日から2ヶ月が経ってしまった。

なのに、まだあなたの声が耳の奥に残っている。

__おかえり

その言葉が、どんなに好きだったか。

だから今日も、いつものように靴を履いてドアを開ける。


夏の風が、頬を撫でた。

少しだけ涙が滲んだけど、笑ってみた。

_きっと、空の向こうで、あなたが「いってらっしゃい。気を付けてね」と言ってくれる気がしたから。


さあ、行こう。

あなたが生きたかった今日を、精いっぱい生きるために。


あなたにもう一度、ただいまを言うその日のために。


「いってきます」