「きゃぁ！ロシュフォールさんだわっ！」

　ルシアの黄色い声が聞こえて、その人がロシュフォールだとわかった。

「あれがロシュフォール！？あんな奴に勝てるわけねーよ！」

　圧倒的な美しさを前に、敵意をむき出しにしていたレオニードも白旗を上げている。

「陛下、使用人たちも元に戻りました。城へ連れて帰ります！あ、セレーヌ様、はじめまして。皇帝陛下の側近ロシュフォールです！」

　銀色の髪を靡かせながらロシュフォールは美しい敬礼を見せた。ロシュフォールの美しさは飛び抜けている。エルバトリアのパーティーにいたら会場が騒然とすることだろう。

（皇帝陛下の側近で、綺麗でカッコ良くて魔力が強くて剣の腕は陛下よりも強いだなんて、非の打ち所がないわ。）

「魔獣の姿も立派でしたが、人間の姿も素敵ですね。ルシアが好きになるのもわかります。」
「お褒めに預かり光栄です！……え？っ！セレーヌ様、陛下をお願いします！私は先に失礼しますっ！」

　ロシュフォールは逃げるようにその場を走り去った。その直後に、痛いほどの魔力を背中に浴びた。

「俺の前でロシュフォールに目を奪われるとは……」
「挨拶していただけですよ！」

　皇帝陛下は強引に私の手を握って歩き出した。しかし皇帝陛下の手はどんどん熱くなっていく。隣を見ると、皇帝陛下の体からはうっすら煙のようなものが出ていた。

（これって、魔獣になった時と同じなんじゃ……）

　あの時もロシュフォールのことで嫉妬していた。このままでは、また魔獣に変わってしまうかもしれない。

「陛下、お体が……」

　すると、皇帝陛下は私を抱きしめた。体も熱くて、心臓の音がものすごく早い。それに少しだけ呼吸が苦しそうだ。

「だ……大丈夫なのですか？」
「じっとしていろ。」
「はい……」

　皇帝陛下の心臓の音よりも、私の心臓の音の方が早いかもしれない。私は恐る恐る皇帝陛下の背中に手を回した。