手の中にいるレオニードはすやすやと眠っている。アルフォンスは城の中へ魔力を放ち、レオニードが壊した物を修復した。

「よくやったな。」

 執務室へ戻ると、レオニードのために小さなベッドを用意して寝かせた。

 体が消えかけていた精霊がここまで浄化の魔力を使えるようになるとは思っていなかった。精霊は元々持っている能力が違うのだろう。鏡を見ると、セレーヌはベッドに突っ伏して足をばたつかせている。

「ははは。」

 すると、執務室の扉が勢いよく開いてランスロットが飛び込んできた。

「陛下!どうしてあんなことをなさるのですか!」
「早かったな。」
「あんなところに飛ばすなんて、ひどいですよ!」

 目を開けたら草原に寝そべっていた。天気が良くて暖かな日差しが心地よく、とても気持ちがいい環境だったが、城から離れたところにある国境沿いの場所だったため、戻ってくるまでものすごく時間がかかってしまった。

「休みたかったんだろ?お前の望みを叶えただけだ。」
「そんなこと考えたこともありましたけど!」

「静かにしろ。レオニードが起きてしまう。」
「レオニード?」

 アルフォンスが視線を向けた先には、小さなベッドが置いてある。近づいてみると寝相の悪い精霊が眠っている。

「ルシアが悪の精霊になったのはそいつが原因だ。ドルレアンから連れて来た。」
「もしかして、ルシアの彼氏ですか?」

「ルシアはこいつに捨てられたと思ったらしい。」

 精霊の恋愛問題に巻き込まれたせいで、ロシュフォールたちは魔獣に変えられてしまった。そう思うと呆れてしまうけれど、セレーヌがいなければルシアが恋愛に悩んでいることも、恋人がいたことも、何もかもわからないままだった。

「ルシアは恋愛相談をしたかったんですね。だから女性を連れて来いと言った。」

 人間でもアルフォンスに恋愛相談をしたいとは思わない。お前には言わないと何度も突っぱねられた意味がようやくわかった。

「魔獣に変えたのは失恋の腹いせでしょうか。」
「捨てられた後、ロシュフォールに思いを寄せたようだ。だが、ロシュフォールの結婚の話を聞いて……心が折れたのかもな。」

(ロシュフォールを結婚させて皇帝にするって言ってた時期があったもんな……)

「悪の精霊になった原因がわかって良かったです。ルシアがレオニードと話をすれば解決しますね。」
「まだわからない。ルシアはロシュフォールが好きらしいからな。」

 でもレオニードはドルレアンからわざわざ城までやってきた。きっといい方向に向かうはずだ。

「陛下が魔獣にならなかったら、ドルレアンへ行くことはできませんでしたね。ある意味良かったのかもしれません。」
「……そうだな。」

 体が大きくなり過ぎて、行く当てがないからドルレアンへ行ったと聞いた。魔獣になったアルフォンスを見た時はどうしたらいいのかわからなかった。でも、すべてはロシュフォールを元に戻すために動いてきたアルフォンスの願いが届いたからこその結果だったのかもしれない。

「あれ?私は陛下が魔獣になった御姿を二度目撃していますが、二度目はどうして魔獣になったのですか?鏡を見ていたら突然部屋を出られて、突然庭園に魔獣が現れて……」

 ランスロットが宙を見上げると、アルフォンスは鏡を置いて立ち上がった。

「ルシアのところへ行く。レオニード、起きられるか?」

(はぐらかしたな……)

 大方、セレーヌがルシアのためにロシュフォールのことを調べていたのを見て嫉妬でもしたのだろう。アルフォンスの執着は強まるばかりで恐ろしいけれど、セレーヌはアルフォンスが魔獣になった姿も受け入れている。大変貴重で優秀な婚約者様だ。皇妃が務まるのは、セレーヌしかいない。

(大目に見てください、セレーヌ様……!)

 ランスロットは心の中で、セレーヌがアルフォンスのことを嫌いにならないようにと願った。