執務室では、アルフォンスがじっと鏡を眺めていた。仕事そっちのけでセレーヌを見ている。ランスロットはため息をついた。

「陛下、それでは監視しているのと同じですよ?」
「……監視か。」

 アルフォンスはふっと笑ったのを見て、ランスロットはビクッと肩を震わせた。

(気味が悪すぎる!絶対今何かしたに違いない!)

「陛下、何をされたのですか?」
「……」

「嫌がらせはやめてください!セレーヌ様が出て行くことになったらどうするのですか!」

「出られないようにしたから大丈夫だ。」
「出られないようにって、まさか……!?」

「ははは。」

「どうしてそんなことをするのですか!」
「いなくなってしまっては困るだろ?」

「それは監禁と言うんです!今すぐおやめください!
「セレーヌは俺の婚約者だ。どこかへ行くなんて……な?」

 アルフォンスの瞳が怪しく揺れてランスロットは身震いした。何某かの罰でも与えそうな圧を感じる。

「わ、わかりました。せめて気づかれないようにしてください。普通は嫌ですから。監禁も監視も!」
「ははは。」

 アルフォンスはなぜか楽しそうに笑っている。

 ランスロットはため息をついた。結婚しないと言い張り、次期皇帝はロシュフォールと言い続けていたアルフォンスが、セレーヌに思いを寄せていることはとても喜ばしいことだ。だけど、アルフォンスのセレーヌに対する思いは歪んでいる。

 セレーヌが気味悪がって出て行くなんて言い出したら、アルフォンスはどうなってしまうのだろうか。今の状況では、エルバトリアごと飲み込むとか言い出しかねない。

(セレーヌ様にバレませんように!)

 ランスロットは心の中で祈りながら書類をまとめた。