色々話したいことはあったはずなのに、皇帝陛下の様子がおかしいせいで何も話せないまま部屋の前にたどり着いてしまった。

「今の生活に不自由はないか?」
「は、はい!何もありません!」

「困ったことがあったら言ってくれ。」
「はい……!」

「おやすみ。」

 そう言って皇帝陛下は私の手の甲にキスを落とした。全身が沸騰したように熱くなって私は慌てて部屋の中に入った。

(なっ、なんなの!??)

 扉に背中を預けて寄りかかると、足の力が抜けて床に座り込んでしまった。手の甲へのキスなんてただの挨拶だ。エルバトリアでは何度も経験してきたし、慣れているはずだった。

(どうしてこんなにドキドキするの……!)

 全身が心臓の音に支配されているようだ。私は扉の前から動けずに、皇帝陛下のことを考えながらうずくまっていた。