「このまま城へ戻ったら、ランスロットが発狂するだろうな。」

 アルフォンスは静かに裏庭へ舞い降りると、元の姿に戻って静かに森へ向かった。

「陛下!良くご無事で……お、お身体は……」

 駆け寄ってきたロシュフォールはそわそわとして落ち着きがない。ロシュフォールが狼狽えるところを見たのは初めてかもしれない。

「見たのか?」
「はい!すっごくカッコよかったです!」

 ロシュフォールの目が少年のように輝いている。こんな反応をするのはロシュフォールくらいだ。セレーヌが見たら──

「魔獣になることは、ヴァルドラード皇帝の宿命だそうだ。」
「皇帝は必ず魔獣になるということですか?」
「そのようだ。口伝によって引き継がれるものらしい。」
「口伝……ですか……」

 先代は遊んでばかりでアルフォンスに何も教えず、何も引き継がなかった。口伝で引き継ぐことは不可能だ。ロシュフォールは涙が出そうになった。

「セレーヌは、まだ戻らないか?」
「はい……ですが、見てください!泉がとても綺麗なんです!」

 ロシュフォールはアルフォンスと共に泉へ向かった。水面は静かに揺れて、宝石をちりばめたような光の粒が静かに舞っている。

「ルシアもセレーヌ様と話せて楽しいのだと思います。すごいですね、セレーヌ様は。」
 
 アルフォンスは水面を見つめた。大方、ルシアから恋愛相談でも受けているのだろう。

(早く戻って来い。)

 アルフォンスは、無意識にセレーヌの帰還を願っていた。