青い炎は天に向かって勢いよく立ち昇っていく。やがて炎の中から大きな翼を持つ魔獣が現れた。魔獣は翼を広げて空高く舞い上がり、空の彼方へ飛んで行ってしまった。

「う、嘘だろ!?陛下が、ま、まま魔獣に……!?」

 執務室から一部始終を目撃たランスロットは腰を抜かして尻餅をついた。

「ど、どうしたらいいだ?そ、そうだ、セレーヌ様は?!」

 ランスロットはなんとか体を動かして城を出ると、逃げ腰になりながら森へ向かった。すると、森の奥から大きな魔獣の影が近づいてきた。

「ランスロット!」
「ぎゃぁぁぁ!!」

 ランスロットは叫び声をあげて飛び上がると一目散に城の方へ向かって走っていく。それを見たロシュフォールは大笑いした。

「ははは、おーい戻って来い!俺だ、ランスロット。」
「な、なんだロ、ロロロロシュフォールか……お、脅かすなよ……」

 ロシュフォールの声を聞いたランスロットはよろよろと戻ってきた。ランスロットは大の動物嫌い。相手がロシュフォールだとわかっていても距離を取るのはいつものことだった。

「ランスロットも見たのか?陛下が魔獣になるところを。」
「あぁ。だから意を決してロシュフォールのところへ来たんだ。何があったんだ?セレーヌ様はどうして帰ってこない?」

「セレーヌ様は……ルシアのところへ行かれた。」
「ルシアのところって……まさか泉の中か!?」

「あぁ。陛下が魔獣になったのは、おそらくそのせいだ。陛下はセレーヌ様をルシアに会わせたくなかっただろうからな。」

 アルフォンスの中でセレーヌの存在はそれだけ大きくなっていたということだ。普段なら、小躍りして喜びたいところだが、今はそんな気分にはとてもなれない。

「お前も魔獣になり、陛下までも……俺1人で全員を助けることなんてとても……」

 尻すぼみになっていくランスロットの声を聞いたロシュフォールは、脅かすようにちょっとだけ吠えた。すると、わかりやすくランスロットは飛び上がった。

「陛下は俺たちと違ってご自身の魔力で魔獣になられただけだ。すぐに対応策をお考えになるだろう。」

 アルフォンスはルシアによって魔獣に変えられたわけではない。自分の力で元に戻る方法を探し出してすぐに戻ってくるはずだ。

「俺はセレーヌ様のお戻りを待つ。お前は城で陛下のお戻りを待つんだ。それが俺たち側近の役目だ。そうだろう?」
「そうだな。その通りだ。」

 ロシュフォールの言葉を聞いたランスロットは力強く頷いた。

「セレーヌ様がいない間、俺は掃除を頑張るよ。」
「セレーヌ様に掃除をさせているのか?」

「セレーヌ様が掃除すると城が光るんだ。すごいんだ、あの方の魔力は。」
「そうか。魔獣の怪我もあっという間に治されていたからな。早く見たいものだ。」

「すぐ見られるようになる。そんな気がする。」
「城のことは頼んだぞ、ランスロット。」
「あぁ。セレーヌ様に失礼のないようにな。」
「わかっているさ。」

 2人は同時に背を向けて歩き出した。空には満天の星が輝いていた。