執務室に戻ったアルフォンスの顔は険しかった。

「どうされたのですか?お顔がとっても険しいですよ?」
「……セレーヌにロシュフォールのことを話した。」
「良いではありませんか。セレーヌ様は知っておくべきです。」

 引き出しから鏡を取り出して見てみると、涙を流しているセレーヌの姿が映っている。やはり話さない方が良かった。悲しんで欲しかったわけではないし、泣かせたいわけでもなかった。

「ランスロット、セレーヌのところへ行ってきてくれ。」
「どうしてですか?」

 アルフォンスはランスロットに鏡を差し出した。

「セレーヌ様が泣いてる!あぁひどい!陛下が皇妃様を泣かせた!」
「森へ行くなと言ったんだ。」

「どうしてですか?セレーヌ様はルシアと話すためにヴァルドラードへお招きしたのに。」
「……今はだめだ。」

「そんなこと言って、一生行かせないつもりですね?」
「……」

「ご心配なのはわかりますが、何もしなければ解決しません。ロシュフォールはずっと魔獣のままですよ?」
「わかっている。」

 ランスロットは鏡に視線を落とした。客間で泣いていたはずのセレーヌは、部屋へ戻って本を読んでいる。

(さすが我が皇妃様!立ち直りがお早い!)

「陛下、茶葉をください。」
「なんだ急に。」

「セレーヌ様が元気になる茶葉をください!すごく美味しいやつ!」
「……あぁ。」

 アルフォンスはボフっと茶葉を魔力で出現させてランスロットに差し出した。

「では、皇妃様をお慰めに行って参ります!」

 仰々しくお辞儀をしてランスロットが出て行くと、アルフォンスは机の上に置かれた鏡へちらりと視線を向けた。