魔獣たちのうなり声と威嚇するような鳴き声が聞こえてくる。声のする方へ静かに近づいていくと、大きな魔獣が牙を剥いてにらみ合っていた。体は傷だらけで血が流れている。

(あれが魔獣の喧嘩……すごい迫力だわ……)

 どちらの魔獣もロシュフォールたちとは違う色をしている。血気盛んな魔獣を刺激したら、ただでは済まないだろう。息をひそめて見ていると、奥の木の影にロシュフォールの尻尾が見えた。

(ロシュフォール……?)

 私は喧嘩をしている魔獣に気づかれないよう気配を消して、ロシュフォールのところへ向かった。

 ロシュフォールに声をかけようとした私は息を呑んだ。ロシュフォールの前には、血だらけの小さな魔獣が横たわっている。

「この子は……」
「セレーヌ様……」

 木に挟まっていたところを助けた小さな魔獣だ。

「どうして?喧嘩とは関係ないでしょう?」
「この辺りで遊ぶこともありましたから……運が悪かったのだと思います……」

 縄張り争いの喧嘩に巻き込まれてしまったということだろうか。私は血だらけの魔獣を抱きかかえた。体は暖かいのに、心臓の鼓動が感じられない。

「今助けるから……」

 私は魔獣に向かって魔力を放った。しかし、以前のように目を開けることはない。

「……!」

 私は何度も魔力を放った。しかし魔獣の目は閉じたまま動かない。

「セレーヌ様……この状態ではもう……」
「わかってるわ。わかってるけど……!」

 傷が深すぎて魔力では助けられない──そんなことはわかっているけれど、諦めきれない。

「まだ体が暖かいのよ?もしかしたら……もしかしたら助けられるかもしれないから……!」

 そう思って私は魔力を放ち続けた。

「もうおやめください!セレーヌ様の魔力が無くなってしまいます!」
「目を覚まして!お願いだから──!」

 力任せに魔力を放つと、魔獣の体が小さく動いた気がした。