掃除をすれば花が現れる。私は嬉しくなって何度も魔力を放った。しかし息切れがするだけであまり進まない。やはり自分の魔力では限界があるようだ。

「やめた方がいいかな……でも、もうちょっとだけ……」

 魔力を放つと、視界がぐらりと揺れた。

(しまった……!)

 思った以上に魔力を消耗していたようだ。地面に叩きつけられるのを覚悟をして目を瞑ると──

「大丈夫か?」

 私の体を受け止めたのは、漆黒の皇帝陛下だった。慌てて体を起こそうとしても力が入らない。

「使い過ぎだ。」

 皇帝陛下は私の手を握った。手のひらから体温と共に体の中へ魔力が流れ込んでくる。手を握って魔力を回復させてもらうなんて、魔力を習い始めた頃、父にやってもらって以来だ。途端に情けなくなってしまった。

「申し訳ありません……!」

 私は皇帝陛下に頭を下げた。ヴァルドラードに来た時、皇帝陛下からは息が苦しくなるほどの魔力を感じたけれど、今日はあの時ほどの威圧感は感じない。

「ここの掃除は普通に魔力を使うだけでは無理だ。かけ合わせた方がいい。」

 かけ合わせるというのは、2つの魔力を同時に使うこと。技術も魔力の強さも必要になる。

(そうだよね。普通にやろうとしてもだめなんだ。でも、かけ合わせるのは……)

「やったことがないのか?」
「はい。私の魔力では……」
「もう少し自信を持ったらどうだ?」

 顔を上げると、皇帝陛下は背を向けて歩き始めていた。涼しげな風が吹いてきて、庭園を覆う草がさやさやと揺れている。足元には赤やオレンジなど、色とりどりの花が咲いている。

(できるのかな、私の魔力で……)

 手を握るとさっきよりも魔力が強くなっているような気がした。皇帝陛下の魔力をもらったからかもしれない。

(皇帝陛下が認めてくださったんだもの。できるわ、私にも。)

 私は深呼吸をして浄化の魔力を放った。そして、間髪入れずに攻撃の魔力を放つ。すると──

「わあっ!」

 見事な花壇が一面に現れて、花に光を与えるかのように、暖かな陽射しが降り注いだ。

「できた!」

 これなら、今日のうちに草の掃除を終わらせられる。私は意気揚々と魔力を放った。