「それで、この花の冠はどうされたのですか?私に変装した陛下とお作りになったのですか?」
「こ、これは母と作ったんです!」

「母上と作った花の冠だから枯らせたくないと?」
「そうです!一緒に花の冠を作ったのは久しぶりでしたから。」

 ランスロットはにこりと微笑んだ。

「花を長く楽しむために使う魔力は、何種類かあります。一番簡単なものは……この本でしょうかね。」

 ランスロットはたくさんある本の中から1冊を差し出すと、そっと花の冠を手に取ってくるりと指で円を描いた。

「これでしばらくはこの状態で楽しめます。」

 ランスロットはセレーヌに花の冠を手渡した。

「魔力をかけてくださったのですか?」
「はい。ですが、私の魔力はたかが知れています。しかしご安心を。枯れた花を復活させる魔力もございます。」

「そんな魔力があるのですか!?」
「枯れてしまったら、陛下に頼んでください。」

「なんでもできるのですね、陛下は。」
「陛下に使えない魔力はありませんよ。」

 セレーヌは大事そうに花の冠を抱えている。花の冠を母親と作ったことは事実なのだろうけど、2人だけの思い出がありそうだ。ランスロットはにやりと笑って静かに囁いた。

「大切になさってください。陛下も大切に保管してますから。セレーヌ様とお揃いの花の冠♡」

 セレーヌの顔がみるみる赤くなっていく。ランスロットはくすくす笑いながら魔法石をテーブルに置いて部屋を出た。

「陛下が私に変装してセレーヌ様とお2人でエルバトリアへ行くだなんて思いませんでした。ははは!すばらしいではありませんか!これは婚前旅行!もしくは結婚前の挨拶と言っていいでしょう!はははは!」

 廊下を進む足取りも自然と軽くなってしまう。

「正式にご両親への挨拶を済ませ、これはもう結婚へ秒読みです。今回は勝手に私に変装したことを許しますよ、陛下!ははははは!」

 ランスロットは、廊下を飛び跳ねながら執務室へ戻って行った。

「……最悪だ。」

 アルフォンスは鏡を伏せて頭を抱えた。