「あれが、魔力の馬車か。」
「すごいわよね。」

 ジーベルトとナターシャは空を飛んで行く馬車を見つめていた。

「……ランスロット様ではないわよね?」
「皇帝陛下だ。」

「やっぱりね。雰囲気が全然違ったもの。」
「客間は息苦しかった。魔力が充満していてな……でもセレーヌは守られていた。」

「あの魔法石?」
「あぁ。皇帝陛下の目的は殿下にお会いすることだったようだ。」

「お会いになったの?」
「何をしたと思う?見事だったよ。殿下の体が勝手に動き出して……はは、滑稽な動きをして、縛られて。雷が落ちてバーンっ!しばらくは眠られるそうだ。」
「いい気味だわ。」

「お前は殿下に厳しいからな。」
「必死に支えてきたセレーヌを捨てたのよ?それに魔力を習得しようとしない。今だって私たちの仕事を無駄に増やしてる。」

「皇帝陛下は殿下が眠っている間に策を考えろと仰られた。『優秀な魔力使いたちを王太子の魔力を抑えるだけの駒として使うな』だそうだ。涙が出そうになってしまったよ。」
「本当ね。」

 空を見上げると、馬車の通った後に光の筋が見えていた。

「婚約破棄されて良かったわ。あの日にランスロット様が声をかけてくださったのは、偶然だったと思えない。」
「そうだな。セレーヌものびのびと魔力を使えるだろう。次に会ったときは、私たちを超える魔力使いになっているかもしれないね。」

 ナターシャは足元に咲く花を見つめた。セレーヌと花の冠を作ったのは久しぶりだった。

「ねぇ、さっきセレーヌが冠をかぶせたのは皇帝陛下ってことよね?」
「そうだな。仲の良さを見せつけられてしまったな。」

「セレーヌはランスロット様だと思っているわよね。ふふっ、いつか気づくのかしら。」
「庭園へ入る直前にランスロット様の姿に変わられたんだ。皇帝陛下は意外と恥ずかしがり屋なのかもしれないね。」

 ナターシャは思い出したように微笑んだ。

「そう言えば、誰かさんも変装して花をくれたことがなかったかしら?」
「なんの話かな。」

 ジーベルトはくるりと背を向けた。