中庭では研修生たちが魔力の指導を受けている。ステファンも一緒に指導を受けているのかと思ったが、そんなことはなかった。ステファンは中庭から少し離れた人目につかない場所で女性と戯れていた。
「これがあいつの日常か。」
「申し訳ございません!」
ジーベルトは気づかれないように小さくため息をついた。セレーヌとの婚約を破棄して結婚すると宣言した令嬢にはすぐ逃げられて、ステファンはだらだらと遊び歩くようになった。当然魔力の習得なんてしていない。おかげで魔力使いが毎日へとへとになりながら城を修復している。
「イグナシオ、あいつは本当にお前の息子なのか?なぜあんなに変な魔力なんだ?」
「それは私にもわからず……」
ジーベルトは思わず吹き出しそうになった。我がエルバトリアの国王は尊敬すべき魔力使いだが、あの王太子がその息子だなんて信じられない。とても理解できないほどの変な魔力を放っている。普段言えないことを皇帝陛下は言ってくれた。
「あれでは、お前の気配すらわからないだろうな。」
イグナシオはただペコペコと頭を下げるだけで何も言えなくなっている。ジーベルトはなんとなく勝ち誇ったような気になった。セレーヌはもうあんな出来損ないの王太子のために魔力を使わなくていいのだ。
「あんな奴のために魔力を習得してきたんだな。それでいいと思うか?」
「はっ……」
突然声をかけられてジーベルトは姿勢を正した。出来損ないだけどステファンは王太子。だからセレーヌは懸命に魔力を習得して支えてきた。それが国のためになると思って……それなのに、セレーヌの気持ちを踏みにじって簡単に婚約破棄をして捨てた。そう思ったら悔しくてたまらなくなった。
「私はセレーヌを誇りに思っております。必死に魔力を習得し、国のためになると思い懸命に殿下をお支えしておりましたのに、あんなに簡単に切り捨てられてしまい……」
「ジーベルト……すまなかった。」
「いえ、申し訳ありません、陛下……」
腹は立つけれど、国王に当たるのは間違いだ。ジーベルトは手を強く握りしめて、当てどころのない怒りを押し込めようとした。
「魔力は自分で習得するしかない。あいつはそれを知る必要がある。」
すると、ステファンは突然立ち上がって奇妙なポーズをし始めた。ステファンと戯れていた令嬢は、驚いて逃げていく。
(な、なんなんだあれは!はは、ははは……だめだ、苦しい……!陛下の前で笑ってはいけないのに……!)
ジーベルトはおかしな格好のステファンを見て必死に声を殺した。
「あ、父上!これ何!?なんとかしてよ!」
ステファンは変なポーズを続けているにも関わらず、さして混乱している様子はない。おそらくこういった不思議な現象もよくあることなのだろう。アルフォンスは大袈裟にため息をついた。
「そいつ誰?」
ステファンは突然見えないロープで縛られて、地面に転がった。
「ぐあっ!な、なにすんだ!」
「ア、アルフォンス様!おやめください!」
イグナシオの声を聞いたステファンは、一瞬だけ目を見開くも、身動きが取れないままアルフォンスを睨みつけた。
「はっ、お前がヴァルドラードの皇帝か。」
「愚かな手紙を書く時間があるなら、魔力を習得しろ。」
「うるさい!俺のセレーヌを奪いやがって!」
「ステファン、やめなさい。セレーヌはアルフォンス様の婚約者なんだよ?」
「父上だってセレーヌに帰ってきて欲しいって言ってたじゃないか!」
すぐさまアルフォンスの鋭い視線を受けて、イグナシオはビクッと肩を震わせた。
「共犯だったのか。」
「違います!」
即座に否定したもののイグナシオの額には脂汗が滲んだ。ステファンの魔力を抑えることが大変過ぎて、そんなことをぼやいたこともあったかもしれない。
「俺にはセレーヌがいなきゃだめなんだ!」
「お前に婚約を破棄されたと聞いたが。」
「セレーヌは戻って来てくれる!俺のことが好きだったんだから!………ぐあぁっ!」
ステファンの体は稲妻のようにビリビリと光り、ぱったりと動かなくなった。
「ステファン……!?」
「眠らせただけだ。」
「そうですか……」
イグナシオは小さくため息をついた。眠っている間はステファンの魔力が暴発することもない。
「今のうちに策を考えろ。優秀な魔力使いたちを王太子の魔力を抑えるだけの駒として使うな。」
「はい……」
「二度と手紙を寄越すなよ?次はないからな。」
「はい……申し訳ございません。」
アルフォンスはマントを翻すと、中庭を抜けてまっすぐ庭園へ向かって行く。
「こ、皇帝陛下……!」
ジーベルトが呼び留めると、アルフォンスはさらりと振り返った。
「セレーヌのことを、よろしくお願いいたします。魔力を習得するのに苦労した分、あらゆる魔力に興味を持つようになりました。きっと今も新しい魔力を学びたい、使いたいと思っていることでしょうから、今後は娘のやりたいようにさせたいんです……」
「我が国の城は手入れができておらず暗かったのですが、彼女が掃除をしてくださるおかげで今はこの城にも負けていませんよ。」
そう言ってアルフォンスはランスロットに姿を変えた。
「これがあいつの日常か。」
「申し訳ございません!」
ジーベルトは気づかれないように小さくため息をついた。セレーヌとの婚約を破棄して結婚すると宣言した令嬢にはすぐ逃げられて、ステファンはだらだらと遊び歩くようになった。当然魔力の習得なんてしていない。おかげで魔力使いが毎日へとへとになりながら城を修復している。
「イグナシオ、あいつは本当にお前の息子なのか?なぜあんなに変な魔力なんだ?」
「それは私にもわからず……」
ジーベルトは思わず吹き出しそうになった。我がエルバトリアの国王は尊敬すべき魔力使いだが、あの王太子がその息子だなんて信じられない。とても理解できないほどの変な魔力を放っている。普段言えないことを皇帝陛下は言ってくれた。
「あれでは、お前の気配すらわからないだろうな。」
イグナシオはただペコペコと頭を下げるだけで何も言えなくなっている。ジーベルトはなんとなく勝ち誇ったような気になった。セレーヌはもうあんな出来損ないの王太子のために魔力を使わなくていいのだ。
「あんな奴のために魔力を習得してきたんだな。それでいいと思うか?」
「はっ……」
突然声をかけられてジーベルトは姿勢を正した。出来損ないだけどステファンは王太子。だからセレーヌは懸命に魔力を習得して支えてきた。それが国のためになると思って……それなのに、セレーヌの気持ちを踏みにじって簡単に婚約破棄をして捨てた。そう思ったら悔しくてたまらなくなった。
「私はセレーヌを誇りに思っております。必死に魔力を習得し、国のためになると思い懸命に殿下をお支えしておりましたのに、あんなに簡単に切り捨てられてしまい……」
「ジーベルト……すまなかった。」
「いえ、申し訳ありません、陛下……」
腹は立つけれど、国王に当たるのは間違いだ。ジーベルトは手を強く握りしめて、当てどころのない怒りを押し込めようとした。
「魔力は自分で習得するしかない。あいつはそれを知る必要がある。」
すると、ステファンは突然立ち上がって奇妙なポーズをし始めた。ステファンと戯れていた令嬢は、驚いて逃げていく。
(な、なんなんだあれは!はは、ははは……だめだ、苦しい……!陛下の前で笑ってはいけないのに……!)
ジーベルトはおかしな格好のステファンを見て必死に声を殺した。
「あ、父上!これ何!?なんとかしてよ!」
ステファンは変なポーズを続けているにも関わらず、さして混乱している様子はない。おそらくこういった不思議な現象もよくあることなのだろう。アルフォンスは大袈裟にため息をついた。
「そいつ誰?」
ステファンは突然見えないロープで縛られて、地面に転がった。
「ぐあっ!な、なにすんだ!」
「ア、アルフォンス様!おやめください!」
イグナシオの声を聞いたステファンは、一瞬だけ目を見開くも、身動きが取れないままアルフォンスを睨みつけた。
「はっ、お前がヴァルドラードの皇帝か。」
「愚かな手紙を書く時間があるなら、魔力を習得しろ。」
「うるさい!俺のセレーヌを奪いやがって!」
「ステファン、やめなさい。セレーヌはアルフォンス様の婚約者なんだよ?」
「父上だってセレーヌに帰ってきて欲しいって言ってたじゃないか!」
すぐさまアルフォンスの鋭い視線を受けて、イグナシオはビクッと肩を震わせた。
「共犯だったのか。」
「違います!」
即座に否定したもののイグナシオの額には脂汗が滲んだ。ステファンの魔力を抑えることが大変過ぎて、そんなことをぼやいたこともあったかもしれない。
「俺にはセレーヌがいなきゃだめなんだ!」
「お前に婚約を破棄されたと聞いたが。」
「セレーヌは戻って来てくれる!俺のことが好きだったんだから!………ぐあぁっ!」
ステファンの体は稲妻のようにビリビリと光り、ぱったりと動かなくなった。
「ステファン……!?」
「眠らせただけだ。」
「そうですか……」
イグナシオは小さくため息をついた。眠っている間はステファンの魔力が暴発することもない。
「今のうちに策を考えろ。優秀な魔力使いたちを王太子の魔力を抑えるだけの駒として使うな。」
「はい……」
「二度と手紙を寄越すなよ?次はないからな。」
「はい……申し訳ございません。」
アルフォンスはマントを翻すと、中庭を抜けてまっすぐ庭園へ向かって行く。
「こ、皇帝陛下……!」
ジーベルトが呼び留めると、アルフォンスはさらりと振り返った。
「セレーヌのことを、よろしくお願いいたします。魔力を習得するのに苦労した分、あらゆる魔力に興味を持つようになりました。きっと今も新しい魔力を学びたい、使いたいと思っていることでしょうから、今後は娘のやりたいようにさせたいんです……」
「我が国の城は手入れができておらず暗かったのですが、彼女が掃除をしてくださるおかげで今はこの城にも負けていませんよ。」
そう言ってアルフォンスはランスロットに姿を変えた。



