ランスロットが執務室に入ると、アルフォンスは険しい顔をして手紙を見ていた。

「どうかなさいましたか?」
「セレーヌの両親から手紙が届いた。」

「おぉ!セレーヌ様はお喜びになるんでしょうね。」
「読んでみるか?」

「え?読んじゃっていいんですか?」

(セレーヌ様のお父上は快く承諾してくださったが、内心は不安なのだろうな。何せヴァルドラードの皇帝は人を喰うという噂があるし……というかその噂流したのは私なんですがね……ははは。)

「では、失礼致します。」

 ランスロットは、セレーヌの両親からの手紙を開いた。そこには両親からの暖かな言葉が並んでいると思っていたのだが──

「なんなんですかこれは!?」
「魔力をかけてみろ。」

 言われた通り魔力をかけると、手紙の上に文字が浮かび上がった。

「まさか、あのポンコツ王太子がセレーヌ様の両親に書かせた手紙、ということですか!?」
「だろうな。」

 手紙に書かれているのは『ヴァルドラード皇帝との結婚はやめてステファン様と結婚しなさい』というもの。しかし魔力をかけたら『絶対に帰って来るな』という文字が浮かんでいる。

「勝手に婚約破棄しておいて、よりを戻したいって言うんですか!?『見てわからない?君との婚約は破棄して彼女と結婚する』とか言ってセレーヌ様を捨てたんですよ!」

 あの時のセレーヌの苦しそうな表情を思い出すと胸が痛む。

「セレーヌ様は陛下の婚約者なのに!何様のつもりなのでしょうか!」
「落ち着け。」

「陛下はどうして落ち着いていられるのですか!こんなに失礼な手紙が届いているのですよ!」
「これが初めてではないからな。」

「どういうことですか!?」

 アルフォンスはランスロットの前に大量の手紙をばらまいた。その手紙には失礼な言葉が所狭しと並んでいる。

「あぁ、腹が立つ!陛下、エルバトリアへ行って来てもよろしいでしょうか。」
「抗議にでも行くのか?」

「その通りです!これは皇帝陛下に対する侮辱!それに、ちゃんと言わないとこれから何度も手紙が届きます。セレーヌ様のご両親だって、また同じような要求をされたら苦痛に違いありません。あのポンコツ程度なら私の魔力でもやれます。」
「……」

「セレーヌ様にお伝えして参ります。よろしいですか?」
「……あぁ。」

 ランスロットは両親からの手紙を握りしめ、ドスンドスンと足音を響かせながら執務室を出て行った。