アルフォンスはため息をついて引き出しから鏡を取り出した。精霊のルシアが女性を連れて来いと言い出したのは、ほんのひと月前のことだった。

「教えてくれ。どうしてお前は悪の精霊になったんだ?」

 聖なる泉を守る精霊ルシアは、泉を浄化する美しい姿をした精霊だった。しかしある日突然、悪の精霊に変わってしまった。悪の精霊ルシアは美しかった頃の面影はなく、真っ黒い魔物の姿をして赤い目を光らせている。

「そんなことより、早く封印を解いてちょうだい。」
「お前を元に戻す方法を教えてくれ。そうでなければあいつらを元に戻せない。」

「絶対あんたには教えない。」

 ルシアを元の姿に戻すためには、ルシアが悪の精霊になってしまった理由を知る必要がある。しかし、何度聞いてもルシアは口を割ろうとしない。その日も諦めて立ち去ろうとすると、ルシアは不貞腐れたように言った。

「どうしてあんたしか来ないの?女の子を連れて来てよ!」

 ルシアはそう言い放って泉の中へ消えた。女を連れて来いと言われたのは初めてだった。

 ルシアが悪の精霊になる前は、森へ出入りする人間も多かった。泉を訪れる女性もいたはずだ。だが今この地を訪れるのはアルフォンスただ1人。そうなったのは、ルシアが悪の精霊に変わったからだ。手を握りしめると、強い風が吹いて森の木々を揺らした。

 ランスロットに話すと、魔力を使える女性の方が良いだろうと言って、魔力使いの多いエルバトリアへ行くと言い出した。ゴミ箱に入っていたエルバトリアからの招待状を拾い、ランスロットは勝手にパーティーに参加してセレーヌを連れてきた。

 セレーヌならルシアの話し相手になれる。セレーヌならば、ルシアが悪の精霊になった理由を聞きだしてくれるかもしれない。期待はしているけれど、どうしても気が乗らない。

「ルシアに会わせていいのか……?」
 
 アルフォンスは書庫で熱心に本を読むセレーヌの姿を見つめた。