学校からの帰り、少し回り道をして銀木犀のある公園に立ち寄った。
銀木犀は常緑樹だから一年中葉っぱがしげっている。それをきれいに丸く刈り込むので、木の下に入れば丸屋根の部屋のようだ。
夏実と私はここが大好きで、二人だけの秘密基地と決めていた。
ここにいれば大丈夫、どんなことからも木が守ってくれる。そう信じていられた。
夕方に近くなっても日差しはまだ強い。木の下は陰になって涼しかった。
掃除をしているおばさんが、草むしりの手を休めて話しかけてきた。
「いい木だよねえ、こんな時期は木陰になってくれて。けど春先は、葉っぱが落ちて案外厄介なんだよ、掃除がさ。」
私は首をかしげた。常緑樹は一年中葉っぱがしげっているはずなのに。
「え、葉っぱはずっと落ちないんじゃないですか。」
「まさか。どんどん古い葉っぱを落っことして、その代わりに新しい葉っぱを生やすんだよ。そりゃそうさ。でなきゃあんた、いくら木だって生きていけないよ。」
帽子の中の顔は暗くてよくわからなかったけど、笑った歯だけは白く見えた。
おばさんはよいしょと言って掃除道具を抱えると、公園の反対側に歩いて行った。
私は真下に立って銀木犀の木を見上げた。
かたむいた陽が葉っぱの間からちらちらと差し、半円球の宙にまたたく星みたいに光っていた。
ポケットからビニール袋を取り出した。花弁は小さく縮んで、もう色がすっかりあせている。
袋の口を開けて、星形の花を土の上にぱらぱらと落とした。
ここでいつか夏実と花を拾える日が来るかもしれない。それとも違うだれかと拾うかもしれない。あるいはそんなことはもうしないかもしれない。
どちらだっていい。大丈夫、きっと何とかやっていける。
私は銀木犀の木の下をくぐって出た。



