星の花が降るころに①

                                  
帰りは図書委員の集まりがあったせいで遅くなった。

のろのろと靴を履き替えていると、校庭からサッカー部のかけ声が聞こえてきた。

もう九月というのに、昨日も真夏日だった。

校庭に出ると、毛穴という毛穴から魂がぬるぬると溶け出してしまいそうに暑かった。

運動部のみんなはサバンナの動物みたいで、入れ代わり立ちかわり水を飲みにやって来る。

水飲み場の近くに座って戸部君を探した。夏実とのことを見られたのが気がかりだった。

繊細(せんさい)さのかけらもない戸部君だから、みんなの前で何を言いだすか知れたものじゃない。

どこまでわかっているのか探っておきたかった。

だいたいなんであんな場面をのんびりと眺めていたのだろう。それを考えると弱みをにぎられた気分になり、八つ当たりとわかっても憎らしくてしかたがなかった。

戸部君の姿がやっと見つかった。

なかなか探せないはずだ。サッカーの練習をしているみんなとは離れた所で、一人ボールを磨いていた。

サッカーボールはぬい目が弱い。そこからほころびる。だから砂を落としてやらないとだめなんだ。使いたい時だけ使って、手入れをしないでいるのはだめなんだ。

いつか戸部君がそう言っていたのを思い出した。

日陰もない校庭の隅っこで背中を丸め、黙々とボール磨きをしている戸部君を見ていたら、なんだか急に自分の考えていたことがひどく小さく、くだらないことに思えてきた。

立ち上がって水道の蛇口(じゃぐち)をひねった。水をぱしゃぱしゃと顔にかけた。冷たかった。

溶け出していた魂がもう一度引っ込み、やっと顔の輪郭(りんかく)が戻ってきたような気がした。

てのひらに水を受けて何度もほおをたたいていると、足音が近づいてきた。後ろから「おい。」と声をかけられた。戸部君だ。

ずっと耳になじんでいた声だからすぐわかる。

顔を拭きながら振り返ると、戸部君が言った。

「俺、考えたんだ。」

ハンドタオルから目だけを出して戸部君を見つめた。何を言われるのか少し怖くて黙っていた。

「ほら、『あたかも』っていう言葉を使って文を作りなさいってやつ。」

「ああ、なんだ。あれのこと。」

「いいか、よく聞けよ…おまえは俺を意外とハンサムだと思ったことが――」

にやりと笑った。「――あたかもしれない。」

やっぱり戸部君って、わけがわからない。

二人で顔を見合わせてふき出した。中学生になってちゃんと向き合ったことがないから気付かなかったけど、私より低かったはずの戸部君の背はいつのまにか私よりずっと高くなっている。

私はタオルを当てて笑っていた。

涙がにじんできたのはあんまり笑いすぎたせいだ、たぶん。