星の花が降るころに①


「はぁー、つっかれた…」
                         
成人式が終わって夏奈と別れて家に帰りついて一息つく。

インスタを流し見てふと時計を見ると、時刻は7時12分だった。数時間前の記憶がリフレインする。

そういえば、夏実は7時半から駅前のカフェで話したいことがあると言っていた。

同窓会用の綺麗めな服装に着替えて、最低限の荷物を持って家を出た。

十数分歩くと、駅が見えてきた。

位置情報を確認しながら、夏実が指定した駅前の『mimi』を見つけて、カフェの扉を引くと、からんころんと丸いドアベルの音が白基調の店内に響いた。
                    
店内は暖房がしっかり効いていて、むしろ暑いくらいだ。

私はアイスカフェオレを注文してセルフサービスのガムシロップを何個かつかんで席に戻った。

「お待たせいたしました。アイスカフェオレです」

黒いストローに口をつけてグラスの中身を吸う。

「まーなつ」

私がアイスカフェオレにガムシロップを入れていると、8年前よりも大人びていて、それでいて8年前の面影を感じる声が私を呼んだ。

「夏実!」

顔を上げると、彼女はあの時と変わらない飾りっけのない短い黒髪と薄いブルーのブラウスに身を包んでいた。

「ひさしぶり。元気?」

世間話をするかのような気安さでそう話しかけてきた夏実は、店員を呼んでホットミルクティーを注文した。

夏実のホットミルクティーが届くまでの間、彼女は饒舌(じょうぜつ)にしゃべった。

高校や大学の話、バイト、就活の話、中学時代の話などの話を私は相槌を打ちながら聞く。

「ねぇ愛都。戸部君は…」

夏実が自分の手と手を重ねてふと真剣そうな面持ちでそう切り出した途端、ちょうどホットミルクティーが届いた。

「お待たせいたしました、ホットミルクティーでございます。伝票失礼いたしますね」

銀色の伝票立てに伝票を入れた女性店員が厨房に戻っていく。

「戸部君がどうしたの?」

先ほどの夏実の発言のつづきを知りたくて私は夏実の方に体を乗り出した。

「いやなんでも。あと…中1の時、意地張って愛都のことを傷つけてごめん」

しかし彼女はホットミルクティーが入った白いティーカップをソーサーから持ち上げて話題をそらしてしまった。

「いや…私も、ごめんね。夏実とちゃんと話せばよかった」

そう言って私がアイスカフェオレをストローで吸い上げると、量が少なくなってきたせいで、ふごごっという汚い音が鳴ってしまった。

「そんなこと言ったって過去は変わんないし、握手しよう」

ソーサーに白いティーカップを戻して夏実がこちらに手を伸ばしてくる。

その手は記憶よりもずっと頼りがいのある手だった。

ふと自分の手を見つめる。私はどうだろう。

私は8年前から何一つ変わっていない頼りがいのない手を夏実の方に差し出した。