花梨ちゃんは最初からかわいい後輩だ。かわいいから羨んでしまう後輩。
 でも今、花梨ちゃんのうしろに、ぱたぱたと揺れる尻尾の幻が見えた気がする。
 




「――っていうことがあったの」

 電話口で花梨ちゃんとの一連の話をすると、吉見さんが低く笑った。

『三ツ谷さん、そういうキャラだったんだ。知らなかった』

 花梨ちゃんとのランチから、二日後の水曜日。
 クライアントを訪問して直帰し、シャワー後の濡れ髪をタオルドライしていたら、吉見さんから電話がかかってきたのだ。
 夕飯前でお腹は空いていたけれど、電話に飛びついたのはいうまでもない。

「私も。びっくりしちゃった。前から慕ってくれてはいたんだけど、最近はますます懐かれていて。三階に行くとなかなか離してくれないの」
『関係が戻って、よかったな』

 ぶっきらぼうな感じ。やっぱり吉見さんだなぁ。
 でもその声を聞くと安心する。

「それは私もほっとしたよ。でも、そのおかげで吉見さんの席に近づけない……」

 ついため息が漏れる。
 前は仕事があったから、遠慮なく吉見さんのところに行くことができていた。
 けれど、最近はまず用事がない。
 その上、せっかく三階に行く用事ができても、吉見さんに声をかける隙が作れない。

「っていうか、そもそも吉見さんがぜんぜんいない。今日も顔を見れな……」

 言いかけて口をつぐむ。
 ル・ポワンの工事は順調だ。定期的に現場を見てくれている吉見さんからも、予定どおりに竣工しそうだと聞いている。
 私のほうも、ル・ポワンがきっかけで新しいクライアントがついて、そちらも現在ラフ案が通ったところ。これから忙しくなりそう。
 そして吉見さんも。

「広島は明日まで?」
『だな。明日は、クライアントの偉いさんと市内を回るくらいだけど』

 うちの設計事務所は、基本的には関東圏を営業範囲としている。