一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは

「そりゃあもう、しゃもじ一択です」
「さすが」
「帰ってきたら、そのしゃもじでご飯よそってあげるね」

 吉見さんが一瞬だけ目を見開いて、小さく笑う。
 屈託のない笑いが、私たちの関係がたしかに変化したのだと知らせてくれる。
 こんなくすぐったい気持ち、何年ぶりだろう。
 なんだかまだふわふわしていて、落ち着かない。実感がないとはこのことかも。

「俺もジム通おうかな。最近、肉がついてきた気がする」

 ブルゾンを羽織った吉見さんが、自分のお腹に目を落とす。私も釣られて見てしまった。
 見えない肌を想像して、ひとりで顔を熱くする。痴女だよ、私。

「太っているようには見えないけれどなぁ、でも一緒にできたら嬉しい! ジム後はビールに合うおつまみ作るよ」
「ジムの成果を相殺する気か。けど、それいいな。戻ったら、俺も通う」

 そうしているあいだに、私もジムの支度完了。出かける時間だ。
 せっかく恋人になれたと思ったら、しばらく会えなくなるのかぁ。
 玄関で靴を履く吉見さんの背中を見るうち、寂しさがこみ上げてきた。

「キスくらいしたかったなぁ」
「なんつーこと言うんだよ……。俺の理性を試しているわけ?」
「えっ、声に出ていた!?」
「ばっちり聞こえた」

 吉見さんがふり返る。赤くなっているに違いない顔を見られたくなくて、私は慌てて腕で顔を隠した。
 のに、あっさりとその腕を引かれる。

「ちょ、吉見さん! 見ないで。見ないでったら」

 もう一方の手で身を守ろうとしたら、その手も取られた。頭上であっけなくひとまとめにされてしまう。
 羞恥に染まった顔を、私は思わず背ける。耳元で不満げにささやかれて、ぞくっとする。

「したかったんじゃないの」
「それは。でも、なんかいっぱいいっぱいで……っ!?」

 言い終わる前に、薄い唇が触れる。