一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは

 私は食べ進めながら、これまでの遍歴を打ち明ける。
 人前で食べることがトラウマになった中学生での一件も、大学生のとき恋人に「萎える」という言葉でフラれた一件も。

「ひとと一緒に食べると、『このひとは今、私に萎えているのかも』って不安が押し寄せるようになっちゃって。だから、そう思わないで済む吉見さんは、貴重な存在なんだよね」

 吉見さんが物言いたげにして止め、ご馳走様と手を合わせた。
 食事の前後にきちんと手を合わせられるところ、ポイント高いなぁなんて思う。
 食に興味がなさそうだっただけに、手をかけたものに対して心を返してくれているのが嬉しい。

「前に吉見さんは、私に救われているって言ってくれたけれど。先に私を救ってくれたのは吉見さんのほうなんだよね」

 吉見さんが空咳をして目を逸らす。表情は見えなくなったけれど、なんとなく照れているんだと伝わった。
 うわぁ、かわいい。こう言ったら引かれるかもしれないけれど。

「まだ、職場のひとの前では無理だけど。吉見さんの前では、これからもたくさん食べていいかな」
「俺の了解は不要だろ。いつでも、どこでも、陽彩は陽彩のままいれば」

 かわいい、なんて微笑ましく思った直後の殺し文句。
 何倍にも増幅された殺傷能力でもって、その言葉は私の胸に留めの一撃を食らわせた。




 
 蛇口から流れる水が、私の雑念も洗い流してくれればいいのに。

「はい、次くれ。陽彩? ……陽彩」
「あっ! ごめん、手が止まってた」

 私は洗い終わったお皿を隣の吉見さんに渡す。
 吉見さんは「ん」とごく軽くうなずき、受け取った皿を拭いていく。
 片付けるという申し出にありがたく乗って、ふたり並んでお皿を洗い始めたわけだけれど。
 さっきのひと言のおかげで、鼓動がいつもよりせわしなくてどうしようもない。