一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは

「弟、いるんだ」
「うん。十歳差でね、私が面倒を見ていたようなものかな。今は大学生だけど、私から見ればまだ小学生みたいな感じだよ」
「羨ましいな、弟。こんなもん食ってたら、外食したいと思わなくなりそうだな。うちは逆。家族で食卓を囲んだ記憶がほぼないな。両親は共働きだったから、ふだんの食事は、作り置きのメシを各自のタイミングでチンして食ってた」

 吉見さんには四歳上のお姉さんがいて、ふたりとも運動部所属だとか。
 お腹を空かせて帰ってきたら、それぞれ家族を待てずに食べてしまうのだという。

「夏休みになると、『これ食っとけ』ってキッチンカウンターにレトルトのパウチやらカップラーメンやらが山積みにされんの。けど、そういうもんだと思っていたから、寂しいと感じたことはなかったな」

 親は料理が下手だったから、ジャンクフードの日はむしろラッキーだと思っていたらしい。

「自分で作ったりはしなかったの?」
「いや、わざわざ作るより買うほうが早くてうまいし。究極、必要カロリーさえ取れればいいかってなった」

 その行き着く先が、カロリーバーとゼリー飲料かと思うと、なかなか極端だ。
 でもひとりで食べるなら、そうなってもおかしくないと思う。
 私も自分の分だけより、ひとに作るほうが断然、やる気が出ることだし。

「わからないでもないような? 私も、毎日はやらないものね。でも人前ではあまり食べられない分、家ではわりと好き放題しているなぁ。夜中に唐揚げを山盛り揚げたりもするよ」

 吉見さんがそれまでもりもり食べていた手を、初めて止めた。

「それ、気になっていたんだけど。陽彩はなんで、職場では少食キャラを作っているんだ?」
「作っているんじゃなくて……食べられないの、人前では。最初はフリだけだったんだけど、そのうち人前でテーブルにつくと胃が痛むようになっちゃって」