困ったな、とお腹を擦ったとき、クラスの中心的な男子グループのひとりが、お弁当にほとんど手をつけずに席を立とうとしているのが見えた。
サッカー部のエースで、男子にも女子にも人気がある、クラスカーストの最上位人種だ。
『それもう食べないの?』
尋ねたのは、純粋な疑問からだった。
彼の母親が作ったお弁当が、残されているのがもったいなく思えたから。だけど、サッカー男子は鼻で笑って言った。
『あ? オカンの弁当、クソまじぃし……なに? お前、食いたいの?』
『えーっと、もし要らないなら……』
すると彼は、まるで面白い見世物でも見つけたかのように、わざと大きな声で言った。
『マジかよ。自分の全部食っといて、まだ食うの? お前、ヒヨドリじゃなくて、もうそれ冬眠前のクマじゃん』
彼の取り巻きたちが、どっと笑った。
『見た目もクマだよな、横幅とか。プー子って呼ぶ?』
『目白さん、食欲やべーもんな。男より食うし、引くわ』
『ちょっと、男子。ダメだって』
男子をたしなめるふりで、ひそひそ笑う女子の声も耳に届いた。
昨日まで「唐揚げおいしそうだね!」と笑いかけてくれていたはずの、クラスメイトたちだった。
顔が燃えるように熱かった。
大好きだった唐揚げの油の匂いが、急に胸をむかむかさせる。
さっきまで幸せで満たされていたお腹が、今はただただ重い。
『……やっぱり、いい』
蚊の鳴くような声で言ったあと、うつむいて食べたお弁当の唐揚げは、ひとつも美味しくなかった。
里緒が「気にしちゃだめ」と卵焼きをもうひとつくれたけれど、私はそれに口をつけられなかった。
その日からだ。
お弁当の時間になると、クラスメイトの視線が私のお弁当箱の大きさに注がれている気がして、息が苦しくなった。
サッカー部のエースで、男子にも女子にも人気がある、クラスカーストの最上位人種だ。
『それもう食べないの?』
尋ねたのは、純粋な疑問からだった。
彼の母親が作ったお弁当が、残されているのがもったいなく思えたから。だけど、サッカー男子は鼻で笑って言った。
『あ? オカンの弁当、クソまじぃし……なに? お前、食いたいの?』
『えーっと、もし要らないなら……』
すると彼は、まるで面白い見世物でも見つけたかのように、わざと大きな声で言った。
『マジかよ。自分の全部食っといて、まだ食うの? お前、ヒヨドリじゃなくて、もうそれ冬眠前のクマじゃん』
彼の取り巻きたちが、どっと笑った。
『見た目もクマだよな、横幅とか。プー子って呼ぶ?』
『目白さん、食欲やべーもんな。男より食うし、引くわ』
『ちょっと、男子。ダメだって』
男子をたしなめるふりで、ひそひそ笑う女子の声も耳に届いた。
昨日まで「唐揚げおいしそうだね!」と笑いかけてくれていたはずの、クラスメイトたちだった。
顔が燃えるように熱かった。
大好きだった唐揚げの油の匂いが、急に胸をむかむかさせる。
さっきまで幸せで満たされていたお腹が、今はただただ重い。
『……やっぱり、いい』
蚊の鳴くような声で言ったあと、うつむいて食べたお弁当の唐揚げは、ひとつも美味しくなかった。
里緒が「気にしちゃだめ」と卵焼きをもうひとつくれたけれど、私はそれに口をつけられなかった。
その日からだ。
お弁当の時間になると、クラスメイトの視線が私のお弁当箱の大きさに注がれている気がして、息が苦しくなった。



