一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは

 相手は職場の同僚なんだから、慎重にならないと。

『なに?』
「あっ、ごめん。声に出てた。吉見さんの人間力に恐れいってしまって」
『人間力』
「器の大きさっていうか」
『器』

 スマホの向こうで、吉見さんが噴き出した気配がした。

「もう、真面目に言ってるのに。笑ってるでしょ」
『笑った。……笑ったら、腹減ってきた。陽彩の声を聞いたからかもしれない』
「ええ? それでまたカロリーバーのお世話になるの?」
『今、切らしてるんだよな。だから今日はゼリーのほう』

 どっちにしても味気ない。
 吉見さんは、お腹に入ればいい、くらいにしか思ってないんだろうけど……。
 そう思ったら、お節介かもしれないけれど口にせずにはいられなかった。

「ねえ、それだったら……うち来ない? 昨日のお礼に、お昼ご馳走するよ」

 慎重にならないと、なんてついさっき思ったばかりの私は、どこへ行ったんだろう。




 
 電話を切ったあとが大変だった。
 超特急で家を掃除して、全速力で買い物に行く。食材を買いこんで戻ってきたら、すぐさま炊飯器をセットする。
 それからよれよれの部屋着を脱いで、スウェット地のトップスとロングスカートにチェンジ。髪は手早くシニヨンに。
 お味噌汁の出汁を取りながら豚肉の下拵えをし、キャベツを大量に千切りしているとインターホンが鳴った。
 上がってきて、と言ってからエプロンをつける。ふだんはエプロンをつけないのだけれど、そこは乙女心というやつで。
 部屋のインターホンが再度鳴って、ドアを開ければ休日らしいラフな格好の吉見さんが立っていた。細身の黒パンツのシュッとした雰囲気を、厚手のブルゾンがカジュアルダウンさせている。足元はニューバランス。
 ふだんは仕立てのよいコートにジャケット姿なので、新鮮だ。いいものが見られたなぁ。

「座ってて。すぐできるから」