心地いい眠気が近づいてくる。

「そういうの、無防備に言うのはやめておけよ」
「なんでー?」

 髪や肩に触れる、吉見さんの腕がくすぐったい。尋ねながらくすくす笑いが止まらなくなる。
 吉見さんが身動ぐ。私も合わせて身動いだら、肩から回った吉見さんの手が偶然私の手に重なった。
 ドキッとする。のに、手を引くタイミングが見つからない。
 吉見さんが引くのをさりげなく待つけれど、吉見さんが引く気配もない。ドッ、ドッ、と血が手の先に集中する。
 このまま、ひょっとして家まで……なんてあらぬ想像をしてしまう。でも、なんのことはない。
 次のカーブを曲がったタイミングで、吉見さんの手は離れていった。

「陽彩に気がある男は、我慢が効かなくなるだろうから」

 血流が無駄によくなったせいか、酔いがさらに回る。くすくすと、また笑わずにはいられない。
 だって、手のぬくもりが気持ちいいと伝えたくらいで、なんの我慢が効かなくなるというの。
 あ、わかった。私の発言がキモいってことでは。
 そうだよ、キモいよ私。
 ただの同僚からそう言われたら、明日からは態度をあらためようって思うよね。

「ごめん、キモ発言だった。でも、変な意味じゃないから! ほんとうに、それは信じてね。元カレも私にドン引きしてたっていうのに、また引かれることしちゃったー」
「だから、引いてないって」
「だったらいいんだけど。でももし吉見さん、引くなら……」
「なんだよ」
「今のうちにしてねー。でないと、あとになるほど私がつらくなるから」

 吉見さんのジャケットから、冬の乾いた匂いがかすかにする。
 妙に心地のいいその匂いを深く吸いこもうと、私は無意識に顔を彼の肩にすり寄せる。
 そのあと吉見さんがなんと言ったのかは、覚えていない。