自分で振っておいて、返ってきた答えにむず痒くなる。
 ささいな言葉を拾っては、いちいちそこになにかしらの感情を期待するなんて。少し前までの私なら想像もしなかったなぁ。
 でも、と自分を戒める。
 名前呼びだって、今の発言だって、そこに深い意味はない。

「吉見さん、めちゃめちゃいい同僚だよね……! 吉見さんのおかげで、私は今生き返ってるよ」
「同僚、ね」
「吉見さん、なにかあった?」
「いや、なにも。なんで」 

 ちらっと吉見さんを見る。吉見さんは黙々とラーメンを食べていて、その表情はよく見えない。ずずっ、ずずっ、と麺をすする音だけが響く。
 今、声音がいつもと違ったように思ったんだけど、気のせいかな。

「や、なにもないならいいんだけど。……その、もしかして花梨ちゃんとなにかあったのかなって」
三ツ谷(みつや)さんと? なんも……いや、そういやその件で話したかった」
「その件って……」

 知らず肩が跳ねる。
 一次会での、肩が触れそうに近かったふたりの距離を思い出した。

「三ツ谷さんには伝えたから。この前のは誤解で、俺たちはただの同僚だって。だから陽彩は安心していい」
「ただの……うん、ただの同僚だよね。花梨ちゃんに話してくれてありがとう」

 そう、下手にこの関係を壊したくない。
 吉見さんの前でしか楽しく食べられないのに、一緒にご飯を食べられなくなったら嫌だ。暗黒時代に戻ってしまう。
 この関係が壊れたとき、職場のひとたちに、色恋の方面で詮索されたり気遣われたりするのもキツい。
 だったら、ただの同僚でいい。
 そう思うのに、自分の言葉にわずかに傷ついた自分もいて、呆れてしまう。

「ついでに、三ツ谷さんの誘いは断った」
「ん? んん!?」

 すっとんきょうな声が口をついたとたん、ラーメンに咽せてしまった。今、なんて?