「陽彩、お疲れ」

 とりあえずは駅へと歩きかけた私は、その声にふり返った。思ったとおり、吉見さんだ。

「あれ、吉見さん。お疲れさま、吉見さんも駅こっちだっけ?」
「いや。さっき、食ってなかっただろ。二軒目、行くんじゃないかと思って。俺も付き合う」

 ひょっとして、私を気にかけてくれていたのかな。胸の奥にむず痒いものが生まれるけれど、私は吉見さんの周囲へ目を走らせた。
 言わずもがな、花梨ちゃんがいるんじゃないかと思ったからだ。けれど、彼女は見当たらない。

「でも……いいの?」

 いろんな意味の「いいの?」。
 無駄なことを嫌うのに、私に付き合うなんて無駄なことをしていいの?
 花梨ちゃんと親密だったのに、私と二軒目なんか行っていいの?

「もちろん。ていうか、俺も陽彩と話したかったから」

 吉見さんは顔色ひとつ変えずに言うと、歩きながらどこがいいかと思案を始める。
 胸がドキドキし始めるのを悟られないよう、私もなんでもないふうでおすすめの店をスマホで表示させる。
 そうしながらも、顔はゆるみっぱなしでどうしようもなかった。