もはや拷問かと思うほど長く、沈黙が突き刺さる。

「…………それ」
「ひッ」

 思わず変な声が出た。
 泣きたい。転職男が無感情にボソッと言う。

「持とうか。重いだろ」
「や、間に合ってます!」

 私は脱兎のごとく転職男の前から逃げ出した。



 
 更衣室でエコバッグを開けると、親子丼の具とご飯がごちゃ混ぜになっていた。
 苺のソースとプリンが二層になっていたはずの苺プリンも、散々な有様。走って帰ってきたからだ。
 ごめん、と心の中でそれらに謝りながら、ベンチに座る。ひとが来たらいつでも隠せるようドアに背を向けて。
 まさか私が大食いだってこと、気づかれてないよね?
 想像するだけで、息が苦しくなってくる。
 食べ物の味がぜんぜんしなくなる。
 もしもあの転職男が、社内の人間にさっきの話をしたら――。
 ふと脳裏に、男子の囃し声がよみがえる。
 中学二年生の秋、文化祭の準備期間だった。
 クラス全体がどこか浮足立っている昼休みの最中だったことも、はっきりと覚えている。
 その日も、母はクラスの女子が使うサイズよりひと回り大きなお弁当箱に、ぎっしりとご飯を詰めてくれていた。
 おかずは、私の大好きな唐揚げ。
 母の作る唐揚げは市販のものより大きくて、パリッとした衣と鶏肉のジューシーさのバランスが絶妙なのだ。
 それに、私のためにとたくさん作ってくれる。

『陽彩の唐揚げ、美味しそう! いいなあ、陽彩のママはお料理上手で。ね、一個ちょうだい!』
『へへっ。いいよー、じゃあ私は卵焼きちょうだい!』

 親友の()()とおかずを交換し合うのも、楽しい昼休みのひととき。
 その日も、私はあっというまに母が作ってくれた大きなお弁当を平らげた。けれど、文化祭準備で体を動かしたからか、物足りない。