ただ、あとでちょっと反省した。吉見さんは、飲み会の類いが好きではなさそうだったから。
 でも、来てくれたんだ。
 くすぐったい気分を誤魔化すようにビールをもうひと口飲んで、またなにげなく吉見さんを見る。あ、と声を上げかけた。

「――違うんですか!?」

 普段よりワントーン高い花梨ちゃんの声が、テーブルを越えて耳に飛びこんできた。
 吉見さんの隣だ。花梨ちゃんの髪はいつもよりていねいにカールされている。オフホワイトのモヘアニットが、彼女のかわいい雰囲気によく似合う。
 吉見さんの声までは聞き取れない。けれど、花梨ちゃんになにか話しているのはわかる。
 そして花梨ちゃんが、そんな吉見さんに向けてきゅるんとした目で何度も相づちを打つのも見えた。
 遠目に見れば、お互いに顔を寄せ合って話しているふうでもある。
 周りが目に入らず、ふたりだけの世界が出来上がっている感じ。
 もやっとしそうになって、私は勢いよくビールを飲み干した。

「あとで陽彩さんにも謝らなくちゃ」

 自分に関係のあるものごとは、なぜか喧騒の中でも聞き取れる――カクテルパーティー効果、だったかな。今まさにその現象で、花梨ちゃんが私を話題にするのが聞こえた。
 グラスを両手で包むようにして持った花梨ちゃんが、ふいにこちらを向く。目が合った。
 このところ浮かない顔ばかり見ていただけに、久しぶりの笑顔に安心する。
 でも、その笑顔は隣に吉見さんがいるからこそ、なんだろうな。
 気が滅入りかけたとき、吉見さんとも目が合った。
 驚いたふうの吉見さんが、ふと目元をゆるめる。仕事用じゃない、肩の力が抜けた自然体な笑顔だ。その表情、いいなぁ。私まで心が緩むのを感じる。
 ところがその直後、吉見さんは花梨ちゃんの耳元に顔を寄せた。こちらには聞こえないように。

「――」

 親密そうな空気から思わず目を逸らし、私はテーブルの下で両手を強く握りこんだ。