一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは

「なに言ってるの、ダメに決まってる。噂を放置するとろくなことにならないよ」

 と言いつつ、私がなかなか花梨ちゃんに説明できないでいるのは、自分自身にやましいところがあるから。
 花梨ちゃんの誤解が事実無根なのは、言うまでもない。
 だけど私のほうの気持ちだけなら、完全にシロとも言えないんだよね。
 そして私自身、自分の気持ちをどう扱うか――進むのか、撤退してなかったことにするのか、決めかねてもいて。
 こんなどっちつかずの気持ちのまま、花梨ちゃんと面と向かって話すのは怖い。
 私って、こんなに臆病だった?
 小さく息をついて眉を曇らせると、吉見さんが言った。

「まあ、迷惑か。お互い」
「…………う、ん」

 吉見さんの平淡な反応に、思わず口ごもってしまった。
 私の心は、なんて自分勝手なんだろう。
 花梨ちゃんに誤解させた罪悪感があるくせに、吉見さんに噂のことを迷惑だと言われると、胸がぎゅっとつかまれたみたいになって。
 私は迷惑じゃないよ、と今にも言いそうになる自分のやましさが、浮き彫りになる。

「次、機会があったら言っておく」
「うん」

 うなずきながら、吉見さんが直接否定したら、花梨ちゃんは嬉しいだろうなぁと思う。想像して凹む。
 かといって、噂がひとり歩きするのも嫌だ。
 自分の心ながら、扱いにほとほと困る。
 間違いないのは、私がたとえば気持ちのままに進んだとして――その成否にかかわらず、事務所の全員に話が広まるということ。
 そう考えると、相手が同じ事務所の人間だなんてリスクが大きいなぁ。
 勝算も低い今の状況では、なおさら。
 などと悶々と思いを巡らせていると、吉見さんがふいに切り出した。

「ところで、陽彩はどうすんの」
「ん? なに?」

 吉見さんが、通り沿いの居酒屋チェーンの前に置かれた看板を見やる。
 そこには「忘年会」の文字がでかでかと踊っていた。