一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは

 そんなわけで、私は吉見さんが作成した完成イメージ図を元にした提案資料を手に、毎日あちこちを駆け回っている。
 都心のあちこちを彩るクリスマスのイルミネーションも、ゆっくり眺める暇がない。

「さすが陽彩。俺も頑張らないとな」

 すっかり当たり前のように呼ばれるようになった、私の名前。鼓動が乱れたり、舞いあがったりもしていたけれど。
 そこになにがしかの意味を求めようとするのは、もうやめた。

「吉見さんだって、ル・ポワン以外も担当しているんでしょ? 私がせっかく案件を取ってきても、吉見さん忙しくて引き受けてくれなそう。寂しいなぁ」

 宮根課長や柳さんからもちらっと耳にしていた。
 入所当初こそ遠巻きにされていた吉見さんだったけれど、もともと優秀な建築士。
 飲食店設計のノウハウも身につけたため、今では部内で引っ張りだこらしい。
 ほかの部員が、彼の合理的な仕事の進めかたやセンスに学ぶ部分も多いそうだ。
 吉見さんが周りに対して作っていた壁も、以前より崩れつつあるとか。これは柳さん談。
 飲み会への参加率はいまだほぼゼロだけれど、ときどきふたりで飲みにいっているみたい。
 設計同士はいいなぁ。営業の私はこのプロジェクトが終わったら、吉見さんと接する機会もほとんどなくなってしまう。
 ふと花梨ちゃんを思い出して、気が重くなった。
 花梨ちゃんは、私が吉見さんの部屋に泊まったと誤解していた。
 もちろん、その場で誤解を解こうとした。けれど、ちょうどかかってきた仕事の電話に対応しているうちに、花梨ちゃんは席に戻っていた。
 それからというもの、ほとんど口を利いてもらえないでいる。ランチも、もっぱらひとりだ。

「ところであの件……吉見さんは花梨ちゃんに説明できた?」
「向こうが勝手に誤解してるだけだろ。放っておけば?」