一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは

「それで、追い出されたの?」
「いや、自分から辞めた。あの状況で、設計の仕事も回してもらえないんじゃ、いる意味もなかったから。ありがたいことに元A社の社員だっていうひとが噂を聞きつけて、声をかけてくれた。そのひとに誘われて、鷹取に来たってわけ」

 設計の宮根課長がその人物らしい。吉見さんの無実を信じたからこそ、うちに誘ったんだろう。
 吉見さんがうちに来た当初、前の会社で「やらかした」と耳にしたけれど、真相はまったく違ったんだ。
 やらかしたどころか、吉見さんは嵌められたんだ。怒りがふつふつと腹の底から沸いてくる。

「それにしても、いったい誰がそんなこと」 

 言いかけてこめかみが引きつった。
 そりゃあひとりしかいない。吉見さんが静かにうなずく。

「共有サーバー内に偽データを仕込んだのは、西田だよ。あいつはその上で、噂を流していたんだ」

 なんと、西田は偽のメールデータを撮った写真をSNS上に投稿していたらしい。
 社名などはもちろん隠されていたが、見るひとが見れば件のメールだとわかるのだという。
 匿名のアカウントのつもりだっただろうが、西田本人のものだということもすぐ判明したと吉見さんが呆れたふうに言う。

「あいつ、肝心なところで詰めが甘いんだ。設計にもその性格が出ているのに懲りないな」

 聞いた瞬間、私は弾かれたようにソファから腰を上げた。手にしていたコーヒーが波立ち、慌ててローテーブルに戻す。

「それ大日に言った? 言わなきゃ!」
「いや、今さらだろ。さっき、俺が真相を知っていることはあいつには匂わせたから。もういい」
「そういう問題じゃないでしょう!? 吉見さんの名誉の問題だよ!? 大日に戻れるかもしれないのに」
「戻る気はないから」
「や、それはそうかもしれないけど。でもやっぱりこのままなんて。悔しいじゃん! 私が言う!? 言ってもいい!?」