一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは

 思考が沈みかけるのを、私は無理やり引きあげる。今は目の前の食べ物と向き合う時間だし、今しか向き合えないんだから!
 どれから食べよう。カゴいっぱいの、幸せの権化たちを見ながらにまにまする。
 まずは梅おにぎりで口の中をさっぱりさせてから? おやつの時間だと思えば、スイーツから?
 違った、野菜から食べたほうが太りにくいんだ。先日読んだ、時間栄養学の本に書いてあった。
 これだけの量を食べるのなら、油断はいけない。
 まずは大根サラダから攻めて――

「…………」

 私はあやうく、山盛りに入れたチェック柄のエコバッグを取り落としそうになった。
 目の前には、つい数時間前に紹介されたばかりの転職男。
 表情の読めない目が、私とカゴの中を行き来する。
 うきうきしていた気分が、急降下していく。血の気が引くという表現を実感してしまった。
 知り合いの誰にも見つからないように、わざわざ遠いほうのコンビニに来たのに、なんでいるの?

「違っ、これは事務所の皆の分だから! そ、そのっ、買い出しを頼まれただけだから! いっ、いつものコンビニに頼まれたものがなかったから、こっちまで来ただけで、わざと遠いほうにしたとかじゃないから!」

 ぜいぜいと肩で息をしながらまくし立てたあとで、アルバイト店員の視線を感じて顔から火が出そうになった。まだ店の中だった。
 しかも訊かれてもいないのに墓穴を掘った……っ。
 急にエコバッグが重く感じられて、きつく握り直す。手のひらに嫌な汗がにじんだ。

「……」

 転職男が眉ひとつ動かさずに私を見つめる。
 その目の色は深くて吸いこまれそうだけれど、なにも映していないように見える。
 どうしよう。うまく誤魔化せたのかもわからない。
 というか転職男、私がおなじ会社の同僚だって気づいてない? ってことは私、自爆した?