「けど、あいつの案には構造的に致命的な欠陥があった。コンペの場ではうまく隠していたが、俺は欠陥を指摘した。最終的に、俺の案をベースにすることが決まった」
吉見さんが顔を歪める。
けれど、けっきょく大日はコンペに負けた。
「その三ヶ月後だった。ある噂が社内に流れた。今回のコンペを取った――A社にしておくけど、そのA社の案が俺の案に酷似しているらしいって」
最初はただの噂だった。もちろん吉見さんに心当たりもない。
静観していた吉見さんは、しかしいつのまにか追いつめられていった。
「俺の案の設計コンセプトの根幹部分と図面データが、A社にリークされていたんだ」
「えっ!? 機密情報でしょ!?」
設計図面は、すべての建築の要であると同時に設計者にとっての命に等しい。
有名な炭酸飲料メーカーが、その製法を特許にもせず決して外部に公開しないのと同様だ。ひとたび内容が漏れれば、その時点で終わり。
「社内で調査委員会が設置された。そのうち、社内の共有サーバーの古いフォルダから、俺が不正にコピーしたとされる設計データと、A社の担当とやり取りしたというメールデータが発見された」
「え? つまり? 大日案としてコンペに出した吉見さんの案が負けたから、吉見さんがが自分で自分のデータをライバルにねじこんだ……」
売った、とは怖くて口にできなかった。まさか、吉見さんに限ってそんなわけがない。
「自分の案に自信があったからって、コンペに負けた案をよりによってライバルに売るわけない。けど、俺じゃないと訴えても、耳を貸す人間はいなかった。証拠は出ているから、当然だよな。自分の案さえ通れば仲間や会社を捨てることも厭わない、汚いやつだという評判が、あっというまに社内に広がった」
「ひどい……」
絶句してしまう。
コンペは概略設計を競う。それが採用されたのち、詳細設計が始まる。吉見さんがやったとされているのは、一度コンペに負けた概略設計の根幹部分を、よその詳細提案に売り、採用させた……というあり得ない話だった。
「そんな状態で俺と組みたがる人間はいなくて、A社に行けばいいだろ、あっちなら大歓迎だろうからと陰口を叩かれる。干されたんだ、俺は」
吉見さんが顔を歪める。
けれど、けっきょく大日はコンペに負けた。
「その三ヶ月後だった。ある噂が社内に流れた。今回のコンペを取った――A社にしておくけど、そのA社の案が俺の案に酷似しているらしいって」
最初はただの噂だった。もちろん吉見さんに心当たりもない。
静観していた吉見さんは、しかしいつのまにか追いつめられていった。
「俺の案の設計コンセプトの根幹部分と図面データが、A社にリークされていたんだ」
「えっ!? 機密情報でしょ!?」
設計図面は、すべての建築の要であると同時に設計者にとっての命に等しい。
有名な炭酸飲料メーカーが、その製法を特許にもせず決して外部に公開しないのと同様だ。ひとたび内容が漏れれば、その時点で終わり。
「社内で調査委員会が設置された。そのうち、社内の共有サーバーの古いフォルダから、俺が不正にコピーしたとされる設計データと、A社の担当とやり取りしたというメールデータが発見された」
「え? つまり? 大日案としてコンペに出した吉見さんの案が負けたから、吉見さんがが自分で自分のデータをライバルにねじこんだ……」
売った、とは怖くて口にできなかった。まさか、吉見さんに限ってそんなわけがない。
「自分の案に自信があったからって、コンペに負けた案をよりによってライバルに売るわけない。けど、俺じゃないと訴えても、耳を貸す人間はいなかった。証拠は出ているから、当然だよな。自分の案さえ通れば仲間や会社を捨てることも厭わない、汚いやつだという評判が、あっというまに社内に広がった」
「ひどい……」
絶句してしまう。
コンペは概略設計を競う。それが採用されたのち、詳細設計が始まる。吉見さんがやったとされているのは、一度コンペに負けた概略設計の根幹部分を、よその詳細提案に売り、採用させた……というあり得ない話だった。
「そんな状態で俺と組みたがる人間はいなくて、A社に行けばいいだろ、あっちなら大歓迎だろうからと陰口を叩かれる。干されたんだ、俺は」



