欄間は、建てられた当時のまま生かしてあるらしい。ソファやダイニングテーブルも、この空間に馴染む色合いのものがセレクトされている。
吉見さんは前の事務所では文化財改修をしていたというから、その経験も生かされているのに違いない。
古き良きものを生かして、現代に馴染ませるバランス感覚が絶妙だと思う。建築士っていいなぁ。
……なんて、ついしげしげと眺めてしまったけれど、いやこれどうしよう?
吉見さんがキッチンでコーヒーを淹れる。
私は床材と色を揃えた木の肘掛けに、紺色の布を張ったシンプルなソファに浅く腰かけ、自問自答を繰り返した。
『俺の家でもいい?』
とっさに答えられなかった私に、吉見さんはなにかに気づいた様子で付け足した。
『ここから近いってだけで、他意はないから。帰りも送る』
ほっとするような。それはそれではっきり言われると微妙なような。
複雑な気分を持て余しつつ、ついてきたわけで。
でもやっぱりそわそわして落ち着かない。
男性の家でふたりきりというシチュエーションに耐性がなさすぎる。
「――きっかけは、市立美術館改修の設計コンペだった。まず社内コンペを勝ちあがったチームの案を、正式に大日としてコンペに出すことになったんだ」
吉見さんが、マグカップを私に差し出す。小さくお礼を言って受け取ると、コーヒーの馥郁とした香りが鼻をくすぐった。
「その市立美術館は昭和期に建てられたもので、登録有形文化財に指定されていた。俺のチームの案は、どっちかというとデザインより実利重視だった。あいつの案は俺と真逆で、大胆な設計変更とキャッチーなデザインが売りだった」
西田のことだ。私は居住まいを正す。
吉見さんはソファのそばに立ったまま、自分のコーヒーに口をつけた。
吉見さんは前の事務所では文化財改修をしていたというから、その経験も生かされているのに違いない。
古き良きものを生かして、現代に馴染ませるバランス感覚が絶妙だと思う。建築士っていいなぁ。
……なんて、ついしげしげと眺めてしまったけれど、いやこれどうしよう?
吉見さんがキッチンでコーヒーを淹れる。
私は床材と色を揃えた木の肘掛けに、紺色の布を張ったシンプルなソファに浅く腰かけ、自問自答を繰り返した。
『俺の家でもいい?』
とっさに答えられなかった私に、吉見さんはなにかに気づいた様子で付け足した。
『ここから近いってだけで、他意はないから。帰りも送る』
ほっとするような。それはそれではっきり言われると微妙なような。
複雑な気分を持て余しつつ、ついてきたわけで。
でもやっぱりそわそわして落ち着かない。
男性の家でふたりきりというシチュエーションに耐性がなさすぎる。
「――きっかけは、市立美術館改修の設計コンペだった。まず社内コンペを勝ちあがったチームの案を、正式に大日としてコンペに出すことになったんだ」
吉見さんが、マグカップを私に差し出す。小さくお礼を言って受け取ると、コーヒーの馥郁とした香りが鼻をくすぐった。
「その市立美術館は昭和期に建てられたもので、登録有形文化財に指定されていた。俺のチームの案は、どっちかというとデザインより実利重視だった。あいつの案は俺と真逆で、大胆な設計変更とキャッチーなデザインが売りだった」
西田のことだ。私は居住まいを正す。
吉見さんはソファのそばに立ったまま、自分のコーヒーに口をつけた。



