一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは

「目白さん、まだ時間ある?」
「あるよ、どうしたの?」

 頬の赤みが引いていますようにと、心の内で祈りながらうながす。吉見さんがごくわずかに、張り詰めた顔をした。

「話、聞いて」
「もちろん! 私でよければいくらでも聞くよ」

 食い気味にうなずくと、吉見さんが安堵を浮かべて苦笑する。
 立ちあがる吉見さんに続いて、私も腰を上げる。吉見さんは周囲を見回し、思案げな顔をした。
「っても、この辺だと大日のやつに聞かれそうだな。……俺の家でもいい?」



 
 まさか、こんな展開になるとは思わなかった。
 西荻窪の駅から住宅街へと歩くと、吉見さんの住まいだという古民家があった。昭和に建てられたものらしい。
 東京に古民家だなんて、珍しい。夜なので外観はよく見えないけれど、ていねいに手入れされた感じがうかがえる。
 吉見さんは、高齢で介護施設に入ることになった大家さんと縁があって格安で借りているのだという。

「しかも、改装可能物件」
「それは建築士の血が(うず)きそうだね」

 吉見さんがうなずいた。

「疼いたから、即決した」

 珍しく平屋で、小ぶりではあるけれど庭もあるのだと吉見さんが続ける。
 それを聞きながらも、私の鼓動は普段の三割増しのスピードで脈打ったままだ。吉見さんが古風な引き戸の鍵を開けると、緊張はさらに高まった。

「上がって。コーヒーしかないけどいい?」
「あ、うん。お邪魔、します……」

 三和土(たたき)を上り、おっかなびっくり板張りの廊下を進む。
 一見、使いこまれた感のある板材だけれど、リノベーションしたものだろう。それくらいは、この業界にいればわかる。
 リビングダイニングは、無垢材のフローリングや漆喰を塗った壁、梁をあえて見せた天井など、開放的であたたかみを感じる空間だった。