一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは

 その熱のせいで、私の手首が心臓になったかのようにせわしなく脈打ち始める。

「へ、変なこと言ったつもりないんだけどなぁ。あのひと、なんか嫌な感じだったし。一緒に仕事をするの大変だっただろうなって想像しちゃうよ」

 勝手に視線がアスファルトへと落ちていく。声が上ずる。噛まなかっただけ、良しとしないと。
 脈が乱れていることは、きっと気づかれてる……!
 そのくせ、手を引くことすら頭に浮かばなくて、私はただされるがまま。早く離してほしいのに口にすることもできず、吉見さんも離そうとしない。
 顔も上げられず、かといって離れることもできず。
 吉見さんの革靴の先だけが、目に入る。きれいに磨かれた、仕事相手への心遣いが感じられる靴。
 そのとき吉見さんの言葉が、ひと粒の雨みたいに私の胸にさざなみを作った。

「今さ、俺、目白さんにすごい救われてんだけど」
「そ、そうなの?」
「そう」
「そ、それはなにより」

 私はうつむいたまま返した。
 ほかになんと言えばいいんだろう。もう二度と吉見さんの顔を見られない気がする。
 鼓動が大暴れして、つかまれた手から甘い痺れが広がって。今、頬に触ったら火傷するんじゃないかと思う。

「あ、頭も撫でよっか?」
「目白さんが?」
「や、今のは言葉のあやっていうか無意識だった!」

 なに言ってるんだろ、私。調子に乗りすぎでしょ。
 慌てて言葉を撤回すると、吉見さんの押し殺した笑い声が聞こえてきた。手が離れていく。
 なんとなく名残惜しい気持ちになりながらも、吉見さんの笑い声が思いのほか明るくて、無意識に詰めていた息を吐く。
 やっといつもの吉見さんが帰ってきたんだ。私が見たかった、見たら安心できると思っていた吉見さんが。
 嬉しさがじわりと広がって、私は顔を上げた。そのタイミングを待っていたかのように、吉見さんが私の顔を覗きこんだ。